さて、ところ変わって、瞬王子の国から遠く離れた北の国。
ちょうど瞬王子の父君が亡くなって瞬王子が高い塔に閉じ込められた頃、北の国のお妃様が病を得て亡くなられました。
色々複雑な事情があったのでしょう。北の国の王様は、周囲の勧めもあって、二度目のお妃さまをお城に迎え入れることになりました。
ところが、この二度目のお妃様が実は魔女だったことが、大事件を起こすことになってしまったのです。

北の国には、先のお妃様が残した王子様がひとりいました。
王子様は大変なマザコンで――もとい、亡くなった母君を心から慕っていて――その母君のものだった居場所にやってきた二度目のお妃様を毛嫌いし、まもなく彼女が魔女だということを知ると、その事実を国王と国民にばらして、彼女をお城から追い出してしまったのです。
地位と面目を失い 怒り心頭に発したのは、一度は迎え入れられたお城から追い出されることになった魔女でした。
彼女は彼女を追い詰めた継子である王子様に、『真実の恋を手にするまで、昼間は白鳥の姿でいるように』という最後っ屁のような呪いをかけて、お城から逃げていってしまったのです。

北の国の王子様は、瞬王子の父君同様、たくさんの間違いを犯しました。
まず、王子様が二番目の母君を嫌った理由が、『自分を愛し慈しみ育ててくれた実母ではないから』というものでした。
つまり、白鳥の呪いをかけられてしまった王子様は、最初から二番目の母を受け入れるつもりがなかったのです。

もしかしたら、魔女のお妃様は、本当は悪い魔女ではなかったかもしれません。
王様と王子様と国の民のために持てる力を使おうとしていた、善い魔女だったかもしれません。
そういうことを見極める前に、白鳥の王子様は、実母ではないから悪い魔女に違いないと決めつけて、彼女をお城から追い出してしまったのです。
こんなことをされたら、善い魔女だって悪い魔女に変身するのは当然です。
魔女の呪いにも一理あるというものです。

これは、愛情が人の目を曇らせてしまった不幸な例といえるでしょう。
瞬王子と違って、北の国の王子様が白鳥になる呪いをかけられたのは、ある意味では自業自得。
自分に過失があったわけではないのに呪いをかけられてしまった瞬王子に比べれば、相当ラッキー(?)です。

確かに、北の国の王子様は軽率でした。間違いを犯しました。
けれど、白鳥になる呪いをかけられた王子様は、自分の行為の報いを甘んじて我が身に受けるだけの潔さを備えていました。
つまり、白鳥の王子様は、自分に呪いがかけられたことを嘆くことはしなかったのです。
それどころか、いたって前向きに、白鳥としての生活を楽しみ始めたのです。
この王子様の名前を、氷河といいました。


強く大きな翼を持つ白鳥は、険しい山も 広い湖も 深い谷も 一気に飛び越えることができます。
前向きな氷河王子は、大空を自由に飛びまわることのできる白鳥になったことを幸い、あちこちの国に飛んでいって見聞を広めていました。
となれば、そろそろ話の展開は見えてきましたね。

Prince meets Prince.

呪いをかけられた二人の王子様は、不思議な運命の糸に操られるように宿命的な出会いを果たしてしまうのです。






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