「普通に可愛い子じゃん。気さくでいい奴だし」
「なかなか聡明な子だぞ。巨視的な視点を持っているし、この状況で思い上がったところが全くないのは奇跡だな」
シュンの姿が消えてしまった 海に臨む高台で、セイヤとシリュウがそれぞれ、シュンについての感想を述べる。
ヒョウガは無言だった。
ヒョウガが無言でいることについては、セイヤもシリュウも沈黙を守っている。
その件に関しては、シュンに対するセイヤとシリュウの見解は『鋭い』の一言に尽きていた。

実際ヒョウガの女遊びは、下手な鉄砲は数を撃っても当たらないという事実を確かめるために、無駄な時間と労力を費やしたようなものだったのだ。
“たった一人の人”を求めて闇雲に行動を起こし、やがてそんな貴重な存在は容易に見付かるものではないと気付いて、彼は慎重になった。
それを、付き合いの長い友人ならともかく、昨日今日ヒョウガと知り合ったばかりのシュンが“なんとなく”気付いてしまう。
これを『鋭い』と言わずして、何と言うだろう。

「ヒョウガ」
「おい、ヒョウガ」
シュンの姿を飲み込んでしまった扉に視線を据えたまま無言でいる金髪の仲間の名を、セイヤとシリュウが口にする。
「パリスにはなるなよ」
ヒョウガにそう忠告しながら、彼等は、既にその忠告が遅すぎた忠告になりかけていることに気付いていた。






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