シュンは黄金聖闘士たちとの接触を避けていたが、セイヤやシリュウたちとは親密さを増しているようだった。 誰に対しても気さくだが、実は人の好き嫌いがはっきりしているセイヤと、一見したところでは理屈っぽく気難しいが、意識して公平に他人に接することのできるシリュウ。 シュンは、その両者との間に極めて良好な関係を築いている。 やがてヒョウガは、シュンに対して抱いている二人の仲間の印象が全く異なることに気付いた。 セイヤはシュンを「気安く屈託のない奴だ」と言い、シリュウはシュンを「慎重で冷静な子供だ」と言う。 ヒョウガはヒョウガで、シュンを「黙っていることのできる、掴みどころのない少年だ」と思っていた。 シュンはもしかしたら対峙する相手の好む人間像を演じているのではないか――。 ヒョウガはそう思うようになっていったのである。 「でもさ。シュンにイカレてる男は一人や二人じゃないんだぜ? シュンが十数人の男の好みのタイプを探り当てて、それを演じ分けてるってのか? そんなこと俳優にだって無理だろ。脚本が与えられてることじゃないんだし」 「黄金聖闘士たちは皆、それぞれに確固たる信念を持ち、極めて我の強い個性的な奴ばかりだ。普通の人間よりは、各人の嗜好を掴みやすいんじゃないか」 「おまえの言う通りだとしたら、シュンは人を魅了する天才だな。恐ろしく洞察力に優れ、頭のいい人間だということになる。俺は、シュンを聡明な人間と認めることについては 決してやぶさかではないが、シュンはどちらかといえば世間ずれしていない純朴な子だと思うぞ」 セイヤとシリュウは、ヒョウガの言うような作為と狡猾をシュンがその身の内に隠し持っていると思うことができないらしい。 実はその点に関しては、ヒョウガも同様だった。 ヒョウガの場合は、『思うことができない』というより、むしろ、『そうであってほしくない』という希望に近いものだったが。 そして、ヒョウガには、それがシュンの天賦の才なのか邪神の力によるものなのかということよりも、シュンはそれを意図して行なっているのか、あるいは無意識の行動なのかということの方が、より大きな問題だった。 「そりゃ、もちろん無意識だろ。シュンは悪い奴じゃねーし、まじで困ってるみたいだし。シュンは ほんとは伯父さんとこで劇作家になるための勉強を続けてたかったって言ってたぞ。そっちで成功するためのパトロンを手に入れようと企んでのことだとしてもさ、何か野心があるのなら、誘惑するのは一人で十分じゃん。黄金聖闘士のおっさんたちは、どいつもそれなりの地位と影響力を持ってるんだから。シュンのために劇場の一つや二つ、ぽんと作ってやれるような奴等ばっかりだ」 「俺もセイヤと同意見だな。争い事を避けようとして、少々優柔不断になっているきらいはないでもないが、シュンは人の心を操って北叟笑むような子じゃない」 「俺も、シュンには悪意はないだろうと思う。が、この異常事態に、俺たちまでが三人ともそう思っているのも不自然なことじゃないか」 「シュンが、俺たちをも操って、そう思わせているっていうのか」 「あるいは、な」 希望とは全く逆のことを、ヒョウガは言葉にしないわけにはいかなかった。 シュンが自分だけを魅了してくれていたならば こんなことは考えもしなかったのに――と、ヒョウガは音がするほど強く奥歯を噛みしめた。 |