グラード財団が運営する その総合病院に、アテナの聖闘士たちは幾度も世話になっていた。 冥界の闘いのあとでは特に入院期間が長かったので、院内には顔馴染みになった医師や看護士も多い。 病院の敷地内には、ホスピスや養護老人ホームの施設もあり、それらの施設のすべてが広い庭を共有しているので、アテナの聖闘士たちが散歩に出てきた入院患者や老人たちと話をすることもしばしばあった。 老人たちが好んで話したがる昔話は、インターネットや携帯電話が普及している現代に生きるアテナの聖闘士たちには 逆SFのようでなかなか興味深く、老人たちのまとう雰囲気は、両親や祖父母といった親族を持たない者たちには、見知らぬ懐かしさを感じさせてくれるものでもあった。 瞬と紫龍は、基本的に老人受けがよかった。 星矢は、よく老人たちから おやつをもらっていた。 氷河だけは老人たちとの間に微妙な距離のようなものがあったのだが、老人たちは、“可愛い星矢ちゃんや瞬ちゃんのお友だち”というので、氷河の無愛想を、いつも にこにこ笑って許してくれていた。 アテナの聖闘士たちは、グラード総合病院の庭で出会う老人たちと極めて良好な友好関係にあり――つまりは、彼等と“仲良し”だったのである。 その日、星矢は、突然空腹を感じたから病院に立ち寄ったのだという。 そんな星矢に、病院の庭に散歩に出ていた老人たちは、おやつと一つの噂話を提供してくれたのだそうだった。 「ものすごい霊能者がいたっていうんだ。あの病院に入院していた患者の中に」 「霊能者?」 「うん。神通力で、死んだ人が隠してた宝物を探し当ててみせたんだと。んで、最近、その噂を聞きつけた奴等が、その霊能者を探して病院に押しかけてきてるんだってさ」 「……」 星矢の報告を聞いた瞬が、奇妙な沈黙を作る。 瞬はそれまで星矢の話の聞き手でい続けていたので、口をきかずにいたのは変わりないのだが、星矢の話を聞く前と聞いたあとでは、その沈黙の色合いが違っていた。 「心当たりがあるような顔だな」 瞬は 困ったような顔をして 両の肩をすぼめ、勘のいい仲間を上目使いに見やった。 |