「くっついた! まままままじでーっ !? 」 翌日の昼休み、いつもの中庭で瞬から事の次第の報告を受けた星矢は、学校中に響き渡るような大声を辺りに響かせた。 さすがに周囲の生徒たちの目と耳をはばかり、慌てて声をひそめる。 「おまえ、知ってるか。氷河はオトコで、おまえもオトコだってこと」 「うん、知ってる」 瞬は星矢の言葉に、浅く頷いた。 知っているどころではない。 氷河がマザコンであることの100倍も、瞬はその事実にこそ思い悩んだのだ。 だが――。 「でも、仕方ないよ。これは氷河のマーマが決めたことなんだ。氷河は、マーマの決定には逆らえないって」 「何がマーマの決定だよ!」 あきれたように舌打ちをしながら、実は至ってリベラルだった星矢は、その件に関してはそれ以上何も言わなかった。 信頼できる友人ふたりが“仲良し”でいることに、彼は何の不都合も感じなかったのである。 「氷河はこれから一生、瞬に投げ飛ばされつつ生きていくわけだ。同情にたえないな」 まして、こうなることを期待して氷河をけしかけた紫龍に遺憾のあろうはずもない。 彼は実に楽しそうに そう言って笑った。 それまで仲間たちの脇で沈黙を守っていた氷河が、紫龍のその言葉に物言いをつけてくる。 「瞬は、女のようだと言われると投げ飛ばさずにはいられないそうだが、花のようだと言われるのは平気だそうだ」 「平気なわけじゃないよ。僕はただ、氷河のマーマに免じて、我慢してあげるって言ったんだ。氷河は氷河のマーマに感謝すべきだよ!」 「それは……無論、感謝している」 改めて言われるまでもなく、氷河は彼の母に心から感謝していた。 彼女のおかげで瞬に投げ飛ばされずに済むことにも、瞬に巡り合わせてくれたことにも、何より、彼女の息子をこの世に存在せしめ、命というものを与えてくれたことに。 「まあ、マザコン同士、気が合うんだろう」 「俺は瞬が誰とくっつこうが、瞬が元気でいてくれて、宿題写させてもらえるんなら、それでいいけどさ」 「俺は面白ければ、それでいい」 到底祝福とは思えない友人たちの祝福を受けて、瞬はナデシコの花のように微笑した。 ピンク色の花は滅多なことでは挫けないのだ。 Fin.
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