「敵の襲撃があったんだって? 留守にしてて悪かったな。大丈夫だったか?」
星矢たちが城戸邸に帰ってきたのは、敵が退散してから数時間が経過した午後のこと。
『どうしても今、△花屋の大辛口柿の種が食べたい』と言って城戸邸を出ていった星矢の土産は、なぜか○和のあんこ玉だった。
星矢なりの気遣いらしいそれを受け取って、瞬は顔をほころばせた。

「うん、平気。氷河がいてくれたから、怪我ひとつしてないよ」
そう言って、センターテーブルをはさんだ向かい側のソファに腰をおろしている氷河の方に視線を向けた瞬は、その時になって初めて、氷河の右の二の腕に10センチほどの長さの擦過傷があることに気付いた。
「氷河、それ、僕を庇った時に……?」

瞬の視線に釣られて同じものを見た星矢が、軽い笑いを洩らす。
「そんなの怪我のうちにも入らないだろ。俺たちは、顔で地面も掘れるアテナの聖闘士だぜ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「こんなものは怪我のうちには入らん」
当の氷河は星矢の意見に賛同したのだが、瞬はそんな彼にきっぱりと言いきった。
「でも、医務室で消毒くらいはしてきてもらって。怪我は大したことなくても、そこからばい菌が入ったりするかもしれないでしょ」

それこそ顔で大理石を砕くこともできるアテナの聖闘士が、こんな些細な傷を真面目に心配することは馬鹿げていると氷河は思っている――と、星矢は思った。
「ああ、そうする」
それでも瞬の指示にはおとなしく従う氷河に、星矢は何かむずがゆさのようなものを感じることになったのである。






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