「んーと、じゃあ、つまり、本来なら別々に違うところにあるはずの二つの世界が、なんかの拍子に交わっちまったってわけ?」
星矢は相変わらず ちんぷんかんぷんでいるらしい。
そして、沙織は、星矢にそれ以上の理解を求めることを断念したようだった。
「星矢は深く考えない方がいいかもしれないわね。確かに、ややこしいことだから」
「ですが――」
沙織の勧めに従って現状を理解することを放棄した星矢に代わり、今度は紫龍が沙織に問うてくる。
「神が人間の空想の産物だというのなら、その宗教信仰に固着して作られた悪魔の類も存在しないということにはなりませんか」

沙織は、龍座の聖闘士の質問には 軽く左右に首を振った。
「それを作ったものは人間の心だと言ったでしょう。人間があると思えば、それはあるのよ。そういったものたちが在ることを信じる人間の心が、実体――とまでは言わないけど、何らかのエネルギー体として存在を生むこともあると思うわ。私の神としての力も、私自身が持つものではなく、私を信じてくれる多くの人々によって与えられたものだと、私は思っているわ。現実に瞬は何者かに襲われかけたと言っているのだし、それが氷河でないのなら、瞬を襲うような者は、この邸内にはいないのだし――」

沙織が再び、ちらりと白鳥座の聖闘士の上に視線を投げてくる。
沙織のたび重なる揶揄を受けて、氷河は自分が女神に挑発されているような気がしてきたのである。
そんなことは絶対にあるはずがないというのに、彼は彼の女神に『この意気地なし』と責められているような錯覚を覚えた。
「完璧なセキュリティシステムを完備しているこの邸内には、人間どころか犬や猫が入り込むことすら不可能よ。侵入することはできても、すぐに生体感知システムに発見されるでしょう」

「では、やはり瞬はまた得体の知れないものに魅入られたということですか」
要するに、それがこの問題の結論――ということだった。
瞬には不運なことに。






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