「あの2人の仲が破綻したら、大変なことになりそうだなー」
当事者2人の姿が消え去ったラウンジで、残ったもう1人の仲間に向かって――というより、独り言のように、星矢が呟く。
言葉の意味するところは深刻なものであったにも関わらず、星矢の口調は実にのんびりしたものだった。

なにしろその言葉を吐いた星矢自身が、それを ほとんど実現の可能性のない仮定文だと思っていたのだ。
氷河は そんな事態を招くことのないように粉骨砕身するだろうし、瞬は努力する人間には甘く、ほだされやすく、浮気な性の持ち主でもない。
星矢には、氷河と瞬は破綻しようのない2人であるように思えていたのだ。

「逆に考えれば、瞬が氷河を好きでいて、氷河の相手をしてやっている限り、平和が続くということだ」
もともとあまり深刻に心配していなかった星矢が、紫龍の言葉に大様に頷く。
「どうせ、あと10年もすりゃ体力も落ちてきて、慣れて、飽きて、落ち着くだろ。最初はなっから騒ぎ立てるようなことじゃなかったんだよ。それを氷河の奴が1人で勝手に騒いでさー」
「それはどうかな。氷河と瞬は一応聖闘士だ。体力の低下はあまり期待できん」
こういう時だけは、並み以上の体力と頑健が不便である。
紫龍の予測は当たっているのかもしれないが、それを不都合と思うことは、星矢にはできなかった。

「でも、性の不一致じゃなく一致なんだろ。何が問題なんだよー」
星矢はやはり どうしても、氷河と瞬の間には最初から何の問題も生じていないような気がしてならなかった。






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