拝啓

日本では朝夕の冷え込みが日一日と厳しくなり、あなたの愛弟子は気温の降下と共に活動的になっております。
現在はシベリアでもフランスでもなく聖域にご滞在と伺い、そちらの方に手紙を出させていただく次第です。

同封したあなたの愛弟子の手紙は お読みいただけましたでしょうか。
龍座の聖闘士である私と天馬座の聖闘士は、偶然、アンドロメダ座の聖闘士の手に渡る前に あの手紙に目を通すことになり、処置に悩んでおります。

一度は、我等が女神に差し出して対処を一任しようかとも考えたのですが、仮にもアテナは処女神。
あの手紙に書かれている内容を彼女に知らせることは、どうしてもはばかられました。
あなたもご存じの通り、我等がアテナは時に悪乗りの癖がはなはだしく、自身の退屈しのぎのためには何をしでかすかわからないところがあります。
あなたの愛弟子を犯罪者として告発する可能性もあれば、逆にあれこれとけしかけて、彼に瞬の貞操を奪わせるための画策を始める可能性もあるのです。

その行動は、一介の青銅聖闘士である私ごときには到底推察しきれるものではありませんが、もし彼女が後者の方向に活動を開始した場合、彼女は彼女の悪乗りの総仕上げとして、氷河と瞬の盛大な結婚式を催すくらいのことはやりかねません。
その時には、あなたは氷河の両親代理として 瞬から感謝の花束を受け取ることになり、我々は友人代表として祝辞のスピーチをしなければならなくなるでしょう。
あなたがどうお感じになるのかは拝察できませんが、我々はそんな恥ずかしいことは御免被りたい――というのが正直な気持ちです。

また、我々は、あの手紙を、瞬の兄である不死鳥座の聖闘士に渡すことも考えました。
あなたも噂くらいはお聞き及びかと思いますが、不死鳥座の聖闘士である一輝は、弟である瞬を溺愛しており、あなたの愛弟子とは瞬を巡って 事あるごとに対立・反目し合っています。
あの手紙を読み、最愛の弟があなたの愛弟子に陵辱されかけたことを知ったなら、その怒りの小宇宙はすさまじく、あなたの愛弟子のみならず、我等が守るべきこの地上さえも燃やし尽くしかねません。

そんなわけで、迷いに迷ったあげく、我々はこの手紙を、あの氷河を育て上げたあなたに託すことにいたしました。
決して責任を押しつけるわけではありませんが、この問題は我々青銅聖闘士ごときには手に負えない問題です。
氷河の師として、また、アテナの聖闘士たちの頂点に立つ黄金聖闘士の一人として、また、分別ある年長者として、あなたの適切なご処置を期待する次第です。
どうかよろしくお願いいたします。


水瓶座アクエリアスのカミュ殿

ドラゴン紫龍 拝


追伸
蛇足ながら書かせていただきますと、我々の見るところ、アンドロメダ座の聖闘士・瞬が、あなたの愛弟子を憎からず思っているというのは、あなたの愛弟子の完全なるうぬぼれというわけではなさそうです。
ですが、何といっても、瞬は非常に奥手で、まだ何も知らない清らかな子供なのです。






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