Say “Yes”






「僕、中学生に見える?」
真顔の瞬に突然そんなことを訊かれて、氷河は答えに窮した。
というより、瞬がどういう答えを期待しているのかがわからなかったので、彼は即答を避けたのである。
そして、瞬の意図を考慮しなければ、氷河の答えは『見えないこともない』だった。

ちなみに、現在の瞬の実年齢は16。
世間一般に照らし合わせれば高校生であり、一般的には、子供に見られたいという気持ちはよりも大人に見られたい気持ちの方が強い年頃だろう。
しかし、瞬を――アテナの聖闘士を―― 一般的な尺度で測るのは、何かが間違っているような気がする。
そう思うと同時に、氷河は瞬の機嫌を損ねたくもなかったので、どう答えたものかと考えあぐねることになったのである。

瞬の望む答えの内容を察しかね、迷ったあげく、氷河は正直になることにした。
『迷った時には真実を語れ』と、かのマーク・トウェインも言っている。
「おまえは年齢不詳だ。目が大きくて澄んでいるから、幼い子供にも見えるし、瞳の色が深いから、ひどく大人びて見えることもある。まあ、小学生から20歳くらいまでなら、何歳と言われても、俺は納得するな」
「小学生……そう……」
瞬の期待していた答えは、やはり、『実年齢かそれ以上』だったらしい。
『小学生にも見える』という氷河の言葉に、瞬は困惑したような表情を浮かべた。

「どうしたんだ」
瞬の望む答えを与えることはできなかったにしても――それでも、とりあえず、問われたことには答えたのである。
瞬の質問の意図を尋ねる権利くらいは自分にもあるだろうと考えて、今度は氷河が瞬に尋ねた。
氷河に問われた瞬は――瞬もまた、即答をためらう素振りを見せた。
氷河が彼の質問を撤回することを、瞬は期待しているようだったが、氷河は今度もまた瞬の期待に沿うことはできなかった。
氷河は瞬の答えを辛抱強く待ち続け――やがて、氷河の追求から逃れることは不可能と悟ったらしく、瞬は観念したように渋々と口を開いた。
それは、氷河にはあまり愉快な話ではなかった。






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