そして、5人のアテナの聖闘士たちは人の世界に戻り、アテナは聖域で、永遠にも似た一瞬の時の過ぎるのを待つことになったのである。
アポロンによって記憶を奪われた青銅聖闘士たちは、それぞれの修行地に運ばれたようだった。
デスクィーン島とアンドロメダ島は既に地上に存在していなかったので、瞬と一輝の兄弟は彼等の故国に送られたらしい。
それがどこでも――彼等が望まない生き方を誰かに強要されることのない場所でありさえすれば、それで構わないと、沙織は思った。

ギリシャのどこかで暮らしているのか、一度星矢が聖域の外れに迷い込んできたことがあった。
彼は、沙織の姿を見ても特に動じた様子は見せず、少年らしい明るい笑顔を残し、再びどこかに行ってしまった。
これでいいのだと、沙織もまた、微笑んで彼に別れを告げた。

彼等と共に闘い傷付いてきた日々が、この世に二つとない宝石のように美しい日々だったので、孤独な女神として地上に存在することは、たまらなく寂しい。
沙織の心は、時に人間としての部分を失い、神としての感覚で時の流れを耐えようとして冷たく凍りついた。
そんな時、沙織は、もう二度と会うことはないのかもしれない愛しい聖闘士たちの名を呼ぶことで、自らの心を温めたのである。

「星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝――」






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