おそらく それは聞き違いに違いない――と、最初 星矢と紫龍は思った。 あるいは、氷河は単位を言い間違えたのだ――と。 他人事とはいえ、それが聞き違いだったなら、どれほどよかっただろう。 だが、それは聞き違いなどではなかったのである。 無論、氷河の言い間違いでもなかった。 「3日3晩、俺たちはほとんどメシも食わずに抱き合っていた」 「おい……!」 さすがに星矢の声が非難めいたものになる。 氷河は、それまで俯き加減にしていた顔をあげ、星矢に 言い訳めいた反論を返してきた。 「仕方がないだろう! 瞬は可愛いし、俺を好きだと言ってくれて、だから何をされてもいいと言ってくれて、俺はほとんど夢見心地でまともな判断力を失っていた。俺は瞬に惚れ切っていて、おまけに へたに聖闘士なんてもんだったせいで体力も有り余っていた。瞬は、声も表情も身体の反応も 俺の乱暴なやり方に耐えている様子も何もかもが魅惑的で、俺はほんの一瞬 瞬と離れるのもつらくて――」 星矢は最初、それを氷河の のろけなのだと思ったのである。 しかし、それが世間で言うところの“のろけ”なのであれば、その内容があまりにも 凄まじすぎた。 「離れるのがつらいっていっても、限度ってもんがあるだろ。いくら やりたい盛りの青少年でも、そうそうおっ立てたままでいられるもんじゃないし」 「それができてしまったんだ」 「それができた……って、おっ立てたたまま、3日3晩がか?」 感嘆するというよりは呆れて、呆れるというよりは信じ難い気持ちで、星矢は、念のために氷河の発言内容を確認しようとした。 星矢に重ねて問われたことで開き直ったのか、氷河が明瞭な日本語で その状況の説明を繰り返す。 「俺はもともと、その気になれば30分程度なら勃起状態を維持することができた。もちろん、自分の意思で落ち着かせることもできた。なのに、瞬といると、それが萎えないんだ」 「えー……と」 何か、とんでもない話を聞かされているような気がする。 星矢の顔は、目一杯引きつっていた。 「1回終えるのに、1時間も瞬を揺さぶり続けていてみろ。どうなると思う」 『時間が無駄に過ぎていく』と答えかけた星矢は、慌てて その回答を喉の奥に押しやった。 これはそういう問題ではないのだ。 「そ……それを3日3晩かよ。瞬の奴、よく死ななかったな」 何とか気を取り直し、星矢は、その事実に今度は純粋に感嘆した。 しばしば敵にまで その細腕を揶揄される瞬だが、瞬が細いのは決して腕だけではない。 聖闘士にあるまじき あの細い身体で、よく3日3晩も氷河の攻撃に耐えられたものだと、星矢は瞬の強さに驚嘆せずにはいられなかったのである。 「死にはしなかったが……。俺は、瞬を殺すと思った。せめて瞬が俺を拒んでくれたら、俺も自分を抑えることができたと思う。だが、瞬も欲しがり続けるんだ。瞬も、俺と離れることをつらく思ってくれているのがわかって、それどころか、もっと欲しがっているのがわかって――」 「それが おまえの勝手な思い込みということはないのか。瞬は、性的には淡白なタイプのように見えるが」 のろけなのであれば凄まじすぎる そののろけを、これ以上聞きたくないと思っているのが わかりすぎるほどにわかる態度で、紫龍が氷河の言を遮る。 紫龍の声音には、せめて瞬だけは普通の人間であってほしいという願望も含まれているようだった。 が、紫龍のささやかな希望は、即座にあっさりと打ち砕かれてしまったのである。 「俺が離れようとすると、瞬は、まるで自分の身体が引き裂かれるような悲鳴をあげる。繋がっていると安心するらしくて、逆に落ち着いてくるんだ」 「落ち着く……つったって、やってる最中に落ち着いたって、たかがしれてるじゃん。それで瞬の心臓が破裂しなかったのって、奇跡なんじゃねーのか」 壮絶としか言いようのない氷河の告白に、星矢はそろそろ自失しかけていた。 では、氷河が『瞬を傷付けたくない』と言っていたのは、心の話ではなく身体の話だったのかと、今更なことを思う。 話半分にしても、それは凄まじすぎる話だった。 |