彼女たちに丁寧に礼を告げて瞬が城戸邸に戻ると、そこでは以前のように氷河が瞬の帰りを待っていてくれた。 瞬の姿を認めると、安心と憤りが混じったような表情を瞬に向けてくる。 「瞬、今日はどこに行ってたんだ。また変な奴に――」 「僕、変な人に声をかけられたら、今度からその人たちには丁重なお断りを入れることにしたよ」 「なに……?」 それが、氷河には、全く想定外の返答だったらしい。 氷河はその瞳から憤りの色を消し、不思議そうな目で瞬を見詰めてきた。 余計な説明はせずに、瞬は、そんな氷河をしっかりと抱きしめたのである。 大切な人たちを幾人も目の前で失い、そのために傷付いた魂。 純粋で不器用で、だからこそ時に我儘で、氷河の心はいつも傲慢と卑屈の間で揺れ動いている。 確かに『可愛い』とは思う。 そして、彼の何もかもを許してしまいそうになる。 だが、人間はいつまでも可愛いだけのものではいられない。 人は前に進まなければならないのだ。 「でも、それは誰もが乗り越えなきゃならないことだから…… 一緒に乗り越えていこうね」 彼の魂を抱きしめるように氷河を抱きしめて、瞬は氷河の胸で囁いた。 Fin.
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