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瞬が極度の不機嫌状態に突入して、既に3日以上が経つ。
原因は大したことではない。
瞬の不機嫌の原因は、『花』だった。

時は春真っ只中。
テレビのニュースの1コーナーで、某市で開催されているというチューリップ・フェスティバルの映像を見た瞬は、ラウンジにチューリップの花を飾ることを思い立った。
氷河を誘い、散歩がてら花屋に出掛けようとしたところで、沙織に資料室に収める書類のファイリングを頼まれる。
氷河は書類のファイリングなどという事務作業の才能には全く恵まれておらず、結局二人は二つの仕事をそれぞれ分担して片付けることにしたのだった。
すなわち、瞬は沙織に依頼されたファイリングを行ない、氷河は花屋で花を買ってくる――と。
ところが氷河は、花を買うという仕事にも才能がなかったらしく、
「赤かピンクだよ」
と瞬に念を押されていたにも関わらず、黄色のチューリップを30本も買ってきてしまったのである。

――それだけのことだった。
「赤やピンクはちょうど切れていて、黄色だけが残っていたんだ」
と事もなげに言う氷河に対して、瞬は、礼を言う前に、
「この花はだめ」
と駄目を出してしまっていたのである。

「赤も黄色も大して違わないだろう。同じチューリップだ。何が気に入らないんだ」
まさかそんな礼を言われるとは思っていなかったらしい氷河が、眉をひそめて瞬に尋ねてくる。
赤はよくても黄色は嫌だという瞬の主張を、彼はただの我儘と思っている様子だった。
瞬は、黄色のチューリップそのものよりも、氷河のその決めつけの方に苛立ちを覚え、
「そういうデリカシーのない人とは付き合っていられません!」
と、彼に絶交を宣言してしまったのである。

「おい、瞬」
絶交宣言をするなり踵をかえした瞬を呼び止める氷河の声には、切迫感が全く感じられない。
どうせすぐに機嫌を直すだろうと考えていることが容易に察せられて、それがますます瞬の心を苛立たせた。
せめて、なぜ自分がそんな我儘めいたことを言ったのかを考えてくれてもいいのではないかと思う。
瞬は、自分を呼び止める氷河の声を無視して、ひとり廊下に出た。






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