霊的な存在である天使に生殖器はあるのか、彼等に歯や舌はあるのか、彼等はどのような翼を持っているのか――世の神学者たちは、そんなことを大真面目に研究しているのだという。
そして、それらがどんな姿をしているのかすら知らないくせに、天使のヒエラルキーまでを勝手に作り、悦に入っている。

ヒョウガは高名な神学者も知らない答えを、その目に映し、じかに手で触れていた。
やわらかい肌。
天使には羞恥心があり、声が可愛らしく、温かい。
ヒョウガに触れられるたび 身体を震わせ、時折、自分の恋人は何のためにそんなところに触れようとするのだろうと訝るような顔をする。

だが、シュンは、すぐにその愛撫の意味を自らの身体で悟り、身悶え、声をあげ、その不可思議な感覚に困惑する様を見せた。
胸に腹に脚に触れられ、自分の身体のどこにでも その不可思議な感覚が潜んでいることを知る。
「ああ……そんな……!」
内腿に唇を押し当てられた時には全身をわななかせ、まるで既に達しているように、シュンは身体を反り返らせた。
この上、性器に触れられたり、体内に自分のものでない身体の一部が入り込んだりしたら、この清らかな人間は、その感覚に耐えることができるのだろうかと、ヒョウガは懸念を覚えさえしたのである。

本来は性交のための器官ではない場所に、男子を確実に達せさせることのできる一点があるのだと、娼婦たちに聞いて、ヒョウガは知っていた。
商売のできない時には、それで客を満足させパン代を得るのだと、彼女たちは言っていた。
思わぬところで、彼女たちの知識は役に立つ。
シュンの身体を傷付けるだけなら、たとえシュン自身に望まれても、こんなことはできなかったかもしれないと思いながら、ヒョウガは、まるで自分が娼婦の仕事に取り組んでいるような気分で、その場所を探り当てるために、シュンの中で指を這わせた。

ヒョウガがそこを探り当てた瞬間、シュンはびくりと大きく身体を震わせた。
薄桃色をしていた頬が紅潮し、喘ぎが大きくなり、膝が小さく震え始める。
これでシュンを快くしてやれると、ヒョウガは安堵したのである。
シュンは、頬を真っ赤に染めて 小刻みに身体を震わせながら、その羞恥の極みの行為に耐え続けていた。
「あ……あ……いや、そんなこと」
言葉では『いや』と言い、だが、シュンは、決してヒョウガの指や唇から逃げようとはしない。
ヒョウガの愛撫から逃れようとすることこそが罪だと思っているように、シュンは懸命に己れの羞恥心と戦っているようだった。

やがてシュンは言葉を発することができなくなり、泣き声に似た間歇的な喘ぎで、牢獄の寝台の上を満たし始めた。
固く目を閉じ、胸を大きく上下させ、身体の緊張と弛緩を繰り返しながら、徐々に自らの意識を手放していく。
ヒョウガに身体を押し開かれた時には、シュンはもう自分が何をされているのか わかっていないようだった。

そして、その時、ためらいやシュンの身体への気遣いを思い起こすには、ヒョウガ自身がシュンの乱れように あおられ過ぎていたのである。
「シュン」
許してくれと言ったのだったか、我慢してくれと言ったのだったか、ヒョウガは覚えていなかった。
おそらく、その言葉を言う一瞬をすら待てずに、ヒョウガはシュンの中に押し入っていた。
途端に、それまで言葉にならない喘ぎだけを繰り返していたシュンが悲鳴をあげる。

「いたい……! ヒョウガ、痛い……っ!」
それが尋常の痛みではないらしいことはわかったのだが、こればかりはヒョウガにはどうしてやることもできない。
耐えてくれと言う代わりに、ヒョウガはシュンの唇に唇を重ねた。
その口付けに説得されたわけではないだろうが――あるいは説得されたのかもしれない――シュンの悲鳴が小さくかすれ、やがて途絶える。
それからシュンは、自ら その苦痛を欲するように、ヒョウガに身体を押しつけてきた。

シュンのそれに比べたらささやかな痛みだったろうが、ヒョウガもまた、シュンの中で痛いほどの圧迫感に襲われていた。
だが、ヒョウガはすぐに、シュンの中は狭いだけで、ひどくやわらかいことに気付いた。
僅かに動かすと、そのやわらかいものがヒョウガに隙間なくぴったりと吸いついて、彼を追いかけてくる。

「シュン……?」
これは気を抜いていると、勝手にシュンにいかされてしまうと、ヒョウガは思った。
シュンは恍惚とした表情になり、先程の悲鳴など すっかり忘れてしまったように やわらかい喘ぎを繰り返している。
「あ……ああ……ああ……」
シュンは既に忘我の域に達しかけているらしい。
身体の内側の やわらかい肉の蠢きにならうように、シュンは、その腰をゆっくりと動かし始めていた。

それはそれで素晴らしい快感なのである。
このまま繋がっていれば、シュンは、彼を汚している男に 永遠に終わらない快楽を与え続けてくれるだろうと、ヒョウガは思った――感じていた。
しかし、終わらないのは困る。
ヒョウガは、シュンのやわらかさを十二分に味わうと、その行為を終わらせるための運動を開始した。
ヒョウガの僅かな動きにも反応し 吸いついてくるシュンの肉壁は、ヒョウガが力強い抜き差しを始めると、ヒョウガを求めて気が狂ったように蠢きだした。






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