「氷河は確かに、常にクールな男とは言い難いけどさ、自分がどういう態度で接するかを人で選ぶだろ。どうでもいいと思ってる奴には結構本気でクールというか無関心というか。愛想笑いの一つも見せない」 「無関心というのは、クールより冷たい対応だぞ。いや、冷たいというより、むしろ温度がないようなものか」 「人を見て態度を変えるってことは、つまり計算高いってことだろ。相手が自分にとって得になる奴か損になる奴かを計算する冷静さがあるってこと」 「氷河は計算などしていないだろう。最初から相手が視界に入っていないから、計算をする必要もない」 星矢と紫龍は、氷河のそういう性癖を非難しているわけではなかった。 むしろ彼等は、そんな氷河に 勝利の可能性というものを見ていたのである。今、この場合に限っては。 しかし、瞬は、非難ではないにしても称賛とも言い難い星矢たちの発言を、否定もしくは訂正せずにはいられなかった。 「氷河が対峙する人間によって態度を変えることは否定しないけど、氷河が特定の人たちに示す情愛をすべての人に対して向けることになったら、氷河の心は擦り切れて消耗しちゃうよ。氷河が氷河にとって特別な人たちに見せる感情や意思は、何ていうか、ものすごく強くて激しいもの。人類すべてにあんなふうに接してたら、氷河の心は過労死しちゃうと思う。だから、氷河のそういう態度って、一種の自己防衛なんだよ」 その『特別な人たち』『特定の人たち』の中に自分が含まれていることを自覚しているのかいないのか、瞬が、懸命に氷河の弁護に努める。 だが、星矢と紫龍は、瞬の主張に 「氷河の特定の人間への執着心は異常だし、変に独占欲も強いから、誰にでもそんなふうでいたら、そりゃあ疲れるだろーなーとは思うけど、世の中には、おまえみたいに誰にでも優しくできる人間もいるわけじゃん。となると、人の心の持つ力の総量に限界があるとは考えにくいだろ。要するに、氷河は、単に好き嫌いが激しいだけなんだよ」 「というより、『好き』が激しくて『嫌い』がないんだ。『嫌い』の代わりにあるのが『無関心』だな。氷河は好きなものしか見ない。ある意味、実に幸せな男だ」 紫龍が、良い評価なのか悪い評価なのか、それこそ評価に悩む評価を口にする。 瞬は、反論の言葉に窮してしまった。 「俺は、俺たちの中では、瞬こそが最もクールな人間だと思うがな」 それまで仲間たちによる自分への人物評を黙って聞いていた氷河が、ふいに気が向いたように横から口を挟んでくる。 あまりに一般的でない氷河の見解に、星矢はわざとらしく肩をそびやかした。 「おまえね、自分の負けを見越して、予防線張ってるわけ?」 「俺は自分が負けるとは思っていないぞ。勝ちたいとも思わんが」 むしろ氷河は、このディスカッションの結論が『氷河はすべての人間に対して誠心誠意全力で当たるべきだ』というところに落ち着くことを警戒していたのだった。 星矢や紫龍にそう言われるのであれば、それは無視すればいいだけのことだが、瞬にそう言われてしまうことだけは避けたい。 だから、氷河は話を脇に逸らした――というより、本筋に戻したのだった。 「だいたい、おまえら、この勝負にはクールな奴が勝つと決めてかかっているようだが、そうとは限らないだろう。普段の態度や性質には関係なく、瞬間的に無我の境地に至れる者が勝つ勝負なんじゃないのか、アレは」 氷河がはっきりと その名称を口にすることを避けて、『アレ』などという意味ありげな指示代名詞を用いて表わした勝負。 それは、『にらめっこ』という勝負だった。 |