戦い済んで日が暮れて。
選手一同、観客一同がそれぞれの世界に帰り、そして誰もいなくなった『第一回 アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』会場。
今は静寂だけが存在する空間に、『アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』トトカルチョの胴元である城戸沙織こと女神アテナがひとり高笑いを響かせていた。
なにしろ、彼女は、『アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』トトカルチョで、億単位の収益を得ていたのである。

瞬に対しては500万の払戻し金が生じ、それは聖闘士たちが拠出したオロボス硬貨をすべて集めたところで払いきれない金額だったが、彼女の真の客は聖闘士たちではなく、ギリシャの神々の方だった。
彼女は、永劫の退屈にうんざりしながら毎日を過ごしているオリュンポスの神々に娯楽を提供し、その親睦を図るという名目で、この大会を開催した。
その目的は、もちろん大いに意義のあるものである。
それは、ギリシャの神々に退屈しのぎで地上にちょっかいを出される危険の可能性を減らすことであり、また、神々同士を牽制させ合うことにもなるのだから。
そして、暇を持て余していたギリシャの神々は、ほいほいと喜んでアテナの提案に乗った。

彼等は皆、相当の財産持ちだった。
神話の時代から各々が祭られてきた神殿で、彼等は多くの人間たちから膨大な宝玉や家畜を捧げられていたのだ。
神々の王・女王であるゼウス・ヘラは言うに及ばず、ひきもきらずに供物が備えられるデルポイの神託所を有しているアポロンの財力は、神々ですら想像を絶するものだった。
ヘルメスなどという泥棒の神もいる。

金品には不自由していないが娯楽には飢えていた彼等は、賭け事というものは賭けるものが大きければ大きいほど得られる興奮も大きいということを知っていた。
彼等は彼等の“楽しみ”のために、惜しげもなく彼等の持つ多くの宝を投げ出した。
しかも、彼等は全員が賭けに負けたのである。
結果として、この賭け事の胴元である沙織の手許には、人間社会の金銭に替えたならギリシャ一国の1年分の国家予算に匹敵するほどの金銀財宝が残された。
沙織の高笑いが止まらないのは、至極当然のことだったろう。

「これで、財団のお金を使うことなく、十二宮とアテナ神像の修復ができるわ! ついでに、アテナ神殿の石のベッドをスターンズ&フォスターのマットレスに換えなくっちゃ!」
知恵と戦いの女神アテナ。
ギリシャの神々の中で最も卓越し、人類に無限の慈愛と寛容を垂れる高貴なる女神。
彼女の歓喜に満ちた高笑いは、彼女自身が止めようとしても止まることはなかった。

人間たちが住む地上世界と、神々が暮らす天界と冥界。
その三界の中で最も計算高くクールな人物は、どう考えても間違いなく、彼女の聖闘士たちを使って大儲けをし、その高笑いを止めることができずにいる女神アテナ その人だった。






Fin.






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