マヤの神






マヤの神々が『神を称えて 神を養う』存在として、この世界に人間を作ってから数千年。
地上では人間の数が増え続け、マヤの神々が支配するこの世界には、今では70ほどの都市が独立国家として共存している。
同じ言葉と同じ文字を用い、だがそれぞれ別個の王を戴くマヤの国々とマヤの人々。
星の運行を観察して作ったハアブに従い、整備された水路から水の供給を受けて農作物を作り、乾季には神を称えるための神殿や天文台の建築作業に従事しながら、時に国と国が争うことはあったにしても、マヤの人々はおおむね平和に、そして飢えることのない生活を享受していた。

シュンはマヤ族が築いたティカルの都の天文台で、代々 星の観測の仕事に従事してきた家の息子だった。
そして、ヒョウガは、マヤの世界においてティカルと勢力を二分するカラクムルの都で有能な戦士を輩出してきた家の息子。
二人はマヤの聖地であるチチェン・イツァの聖なる泉セノーテで出会った。

宗教的には神殿より重要視されている聖なる泉には、季節を問わず巡礼者たちが引きも切らずにやってくる。
巡礼者たちは、その泉に水がたたえられていることを確かめ、高価な宝飾品を泉に投じて、神への感謝を捧げる。
甚だしい日照りや飢饉が起こった時には、そこに生け贄の人間が投じられることもあったらしいが、ここ10数年はそのような生け贄を捧げる事態が生じることはなく、マヤの人々は平和と豊かな実りに慣れ親しんでいた。

その泉で二人は出会い、同じマヤの民ということ以外 何ひとつ共通点はないというのに惹かれるものを感じて出会いを重ねた。
そして、シュンがティカルに、ヒョウガがカラクムルに帰らなければならなくなった頃には、二人は互いに離れ難いものたちになっていたのである。
それ以来、ヒョウガは時間を見付けては、カラクムルの都からティカルの都に通い続けていた。






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