「でもさ、現在には戻ってこれないにしても、人は未来には行けるんだろ?」 「自分の主観で感じる時間の経過速度が、現実の時間の流れと違う速度になるというだけのことだ。時間は普通に流れる」 瞬はどうやら、過去を夢見るという不毛な行為にはきっぱりと見切りをつけたらしい。 星矢の呟きに素っ気ないコメントを付してきた氷河は、昨日とは打って変わって すこぶる機嫌がよかった。 氷河を 言葉や表情に出さなくても、氷河が上機嫌の極みでいることは、長い付き合いの仲間たちには容易に見てとることができた。 氷河の幸せなど、所詮その程度のものなのだ。 もちろん、星矢と紫龍は、それで何の不満も感じることはなかったが。 それが、城戸邸の平和にして常態なのだ。 「俺たちの戦いが無駄じゃないってことを確かめられたらいいのになー……」 「未来に行って、僕たちの戦いが全く無駄で、近い将来、地上は崩壊、人類は滅亡――ってことになるとわかったら、星矢は戦うことをやめるの」 瞬が軽い笑みを浮かべながら――瞬は氷河と違って、声も表情も昨日までとは明確に違っていた――星矢に尋ねてくる。 暫時考え込む素振りを見せてから、星矢が、 「……やめないかも……な」 と、呟くように答える。 瞬の笑顔は更に明るいものになった。 「星矢はやめないよ。僕も、誰もやめない」 「そうだな。なにせ俺たち、希望の闘士ってやつだもんな」 星矢が頷き、紫龍が二人の仲間に賛意を示す。 氷河は、仲間たちだけに見てとれる嬉しそうな表情で、今は迷いと不安を消し去った瞬を見詰めていた。 過去を修正できないように、人は未来を見ることもできない。 当然である。 未来は、“今”を生きている者たちが作っていくものなのだ。 そして、未来への希望は、今を懸命に生きている者だけに持つことが許された特権なのである。 Fin.
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