日本で最初に瞬を出迎えたのは、できれば数年振りの祖国に慣れ、懐かしい旧友たちとの再会を祝し終え、心の準備を万端整えてから会いたいと思っていた 問題のいじめっ子だった。 「これは……奇跡だな。まさか、おまえが聖闘士になって帰ってくるとは思ってもいなかった」 「ん……そうだろうね……」 たとえ本当にそう思ったのだとしても、ものには言いようというものがあるではないか――と、瞬は思ったのである。 たとえば、『生きていて よかった』とか『再会できて嬉しい』とか。 日本語は、同じ一つの事柄を伝えるのに無限と言っていいほどの言い回しを持つ、言ってみれば、多様性に秀でた国語なのだ。 実際、氷河に続いて瞬の城戸邸帰着に気付いた彼以外の仲間たちは、そういう言葉で泣き虫だった古い仲間との再会を喜んでくれた。 それだけに一層、氷河の再会の言葉は瞬を暗鬱な気分にさせることになったのである。 背が伸び、顔つきも子供の頃のそれとは変わっていたが、氷河の根本は全く変わっていないようだった。 彼は相変わらず、“とても綺麗な”顔をしていて、“すごく意地悪”――な男のままらしい。 そんな氷河との再会に、落胆と、前途多難さと、そして、なぜか喜びのようなものを、瞬は同時に感じていた。 また彼にいじめられる日々が戻ってくるのかもしれないと思うと、尋常でない不安を覚えもしたのだが、それでも彼が変わってしまっていないことに、瞬は心のどこかに安堵の思いを抱いていたのである。 二人の関係は以前のままなのだ、と。 とはいえ、二人が変わっていなくても、聖闘士になった二人の世界は、瞬の意思に関係なく大きく変化してしまっていた。 懐かしい いじめっ子との再会を果たしたにも関わらず、瞬は以前のように氷河にいじめられている暇がなかったのである。 ギャラクシアン・ウォーズ、兄とのつらい再会と別離と二度目の再会、城戸沙織と彼女に従う青銅聖闘士たちを倒すために次から次に現れる聖域からの刺客たち。彼等との戦い。 いじめる時間もいじめられる時間も、氷河と瞬には与えられなかった。 いじめっ子といじめられっ子の関係が全く以前の通りにならなかったのは、戦いの場では、思いがけず二人の息が合ってしまったせいもあったかもしれない。 それらの戦いを経て、城戸邸で再会した青銅聖闘士たちは、かつては城戸邸で最強のいじめっ子だった城戸沙織が女神アテナである(らしい)ことを知ることになったのである。 ジュネが日本にやってきたのは、そんな時だった。 |