スキュティアの領主の側にいたいというシュンの望みを、シュンの兄もこの国の王も叶えないわけにはいかなかった。
シュンの力は、内通者や裏切り者、臣下たちの真意を確かめるために非常に有効な力だったが、だからこそ王は、その力を持つ者を敵にまわすことができなかったのである。

そして、シュンの兄は弟を愛していて、何よりもその幸福を願っていた。
もう宮廷には出ず、リビュアの領地で静かに暮らしたいという弟の望みを、彼はむげにはできなかった。
なにより、彼には、シュンに心を読まれることを全く恐れないほど単純馬鹿な人間がヒョウガの他にいるとは思えなかったのである。

領主同士が呆れるほど親密になり、彼等に自領の民以上に隣国の民を思い遣った言動を示されると、二つの領地の民たちも、いつまでも角を突き合わせてはいられなくなった。
堤防を築くにも、水路を整備するにも、隣り合った土地の者たちが協力し合った方が 事は容易で、益になるように、世の中はできている。
二つの領地の領民たちは、徐々に、誰がスキュティアの民で誰がリビュアの民であるのかの区別もつかないほどに溶け合うことになった。
そんな世界の中で、シュンは、人の心は醜いだけのものではなく、その心を偽り曲げることが必ずしも悪意によって為されるのではないことを知ることになったのである。

そうして。
夏には秋に蒔いた冬小麦が、秋には春に種を蒔いた春小麦が、金色に実り輝く美しく豊かな土地で、愛し合う二人はいつまでも幸せに暮らしました。






Fin.






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