いずれにしても、星矢や紫龍は、この手の問題の相談相手としては あまり頼りになる男たちではないようである。 それは予想通りといえば予想通りのことだったのだが、氷河は少なからず、その事実に落胆した。 と同時に、苛立ちも覚えた。 「世の中には、こういうことに詳しい奴はいないのか! 俺に的確な助言を与えてくれるような、ホモとかゲイとかバイとかやおい好きとか!」 落胆と苛立ちが、ヒョウガに自棄としか思えないような言葉を吐かせたが、その言葉の根底にあったものは、すがれるものなら藁にでもすがりたいという悲痛だった。 よもや自分がこんなことで苦悩する羽目になるなどと、氷河は、これまでの人生で一度も考えたことがなかったのだ。 「どういうわけか女の子向けのマンガや小説はホモ花盛りらしいし、ゲイの差別問題とか結構メディアで取り上げられることは多いけどさ。やっぱ、そういうのって、この現代でもマイノリティだと思うぞ」 星矢の至極真っ当な意見に、紫龍がおもむろに頷く。 「それに、そういう方面での大家がいたとしてもだ。普通のゲイの傾向と対策が瞬に適用できると思えないな。瞬は何というか……特殊だから」 「……」 そうなのだ。 瞬は特殊で特別。 それは瞬を恋している男だけが抱く感覚ではない。 無論、アテナの聖闘士であるという一事だけをとっても、瞬は十分に普通の人間ではなかったのだが、その上、“地上で最も清らかな魂”を持ち、今また同性である氷河と恋し合っている。 これで瞬を“一般的”だという人間がいたとしたら、その人物は相当奇矯な価値観の持ち主に違いなかった。 それでも――こんなことになっても、氷河は瞬が好きだった。 その気持ちは強まりこそすれ、薄らぐことはない。 だからこそ、瞬に自分と同じ歓喜を共有してほしいと願うのである。 氷河の肉体は、現在の瞬に何の不足も感じていなかった。 氷河の肉体とそれに付随する欲望は、瞬の身体に大いに満足しており、生理的には全く不便も不足もない。 それどころか、二人が同じベッドで眠るようになってから、瞬はますます健気に可愛らしくなっていた。 瞬は自分が“普通ではない”とは思っていないらしく、自身の無反応振りを全く気に病んでいないようだった。 以前と変わらず 朗らかで、だが氷河に対しては以前より優しく、瞬は基本的に氷河に従順でもあった。 氷河と昵懇の仲になったことで、自分は氷河に関与する権利を手に入れたものと考えたのか、瞬は、日々の生活では横着を決め込んでいる氷河の世話を、以前以上に甲斐甲斐しくこなしている。 セックスの相性が悪いなどという下らない理由で、氷河は瞬と別れる気にはなれなかった。 絶対にそれはできないと思っていた。 絶対に決別できない恋人に、『おまえはおかしい』などと言えるわけもなく、その当然の帰結として、氷河の苦悩には解決のめどが立たない。 要するに、氷河は、八方塞がりの状態に陥っていたのである。 |