国の存亡がかかっているのですから、氷河王子の選んだ花嫁に、北の国の大臣たちは文句を言うことはできませんでした。 大臣たちは何よりも国が大事で、国の存続を願っていましたからね。 ですが、氷河王子の考えは、彼等とは少し――いいえ、180度も違っていたのです。 国が滅びるというのは、いったいどういうことでしょう。 国などという組織に属さなくても人間は生きていける――というのが、氷河王子の考えでした。 国のために国民や王家があるのではなく、国民や王家のために国があるのだと、氷河王子は思っていました。 国のために個人の幸福を諦めるのはナンセンス――というのが、氷河王子の考え方だったのです。 国は、国民が(もちろん王家の人間も)幸福になるためにあるべきもの。 極論を言えば、国がなくても愛と食べ物さえあれば、人は生きていけるのですからね。 “国”はたまたまそこにあって、人が幸福になる手伝いをするもの。 その存在意義は、神様と似たようなものなのです。 そういう考えの持ち主である氷河王子にとって、国を利用して自分が幸福になることは当然にして自然なことでした。 氷河王子は、国というものを極めて正しく――つまりは、自分が幸福になるために――使ったのです。 それに――国のために好きでもない姫君と結婚するなんて、そんな結婚に付き合わされる姫君にとっても迷惑なことではありませんか。 国を盾にとって、自らの恋を貫いた氷河王子。 王子様というものは、いつの世にも 極めて したたかな生き物なのです。 Fin.
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