氷河と瞬の間に昨夜何があったのかということは、既に城砦内の者たちに知れ渡っていた。 瞬の前で無理に表情を引き締めようとする兵たち、引き締め切れずに赤面する兵たちに出会うたび、瞬は恥ずかしさに消え入りたい気持ちになった。 それは、瞬にとっては、氷河の見えない目に裸体を見詰められることより恥ずかしいことだった。 だが、黙って氷河の愛撫を受けることはできないし、ハシタナイ声は氷河を喜ばせる。 瞬は、声を押し殺して静かに氷河に愛されるわけにはいかなかった。 結果、その日以降、エレフシスの城砦には夜ごと瞬の喘ぎ声が響くことになり、それは女っ気のない砦に詰めている兵たちの官能を激しく刺激したようだった。 もっとも、以前の氷河の涙ぐましい努力を知っているだけに、ついに思いを遂げることのできた上官に苦情を申し立ててくる者はただの一人もいなかったが。 そのことを除けば、氷河の目が見えていないという状況は、瞬にはさほど不便なものではなかった。 もともと勘がいい氷河は、光を失ったことで日常生活に大きな支障をきたすことはなく――むしろ氷河の身を見舞った不幸は、瞬にとっては好都合に思えることも多々あったのである。 氷河の着替えを見繕うために、寝台から出たままの格好で彼のチェストを覗いていても、瞬は誰にも見咎められることはない。 氷河の部屋の内に限られたことではあったが、素裸で歩いていても、瞬は氷河の目を気にせずに済んだのである。 「瞬、おまえ、裸で部屋の中を歩いていないか」 「氷河に行儀が悪いって叱られる心配がないんだもの」 エレフシスの城砦に来て10日が過ぎる頃には、瞬は氷河に向かってその程度の冗談は言えるようになっていた。 「氷河、怒らないでね。僕、時々、こうなってよかったって思ってしまってるんだ。おかげで僕は氷河を独り占めできるし、それに――」 「それに?」 「氷河の目が見えてたら、僕、氷河の目の前であんなに大きく脚を広げることなんて絶対にできなかった」 「……」 清純で売っている瞬らしからぬ大胆な発言に――あるいは それは、清純で売っている瞬だからこその発言だったのかもしれなかったが――氷河は、光を捉えることのできない瞳を丸くした。 「おまえが恥ずかしがっている姿を見ることができないのは 癪でならないが――」 本当に悔しそうに、氷河はそう言った。 が、すぐに 彼は、その悔しげな表情を彼の顔の上から消し去った。 「しかし、行儀のいいおまえが裸で部屋の中を歩いてるなんて、想像しただけで興奮する」 (ほんとだ) 氷河の目が見えていたら、瞬は懸命に氷河のそれを見ていない振りをしなければならなかっただろう。 氷河のそれは面白いくらい すぐに反応し、変化する。 気付いていることを気付かれないために、瞬はわざと声を厳しいものに変えた。 「そういう冗談はやめて」 「冗談ではないんだが」 (うん、わかってる) 氷河の着替えを選び終えると、瞬はもう一度氷河の横に戻って、彼の“冗談”を静めるために、彼の手を自分の唇に導いた。 氷河の指が瞬の唇をなぞり、首を辿り、肩に下り、その腕を掴んで瞬の身体をもう一度寝台の中に引き入れる。 氷河が彼の恋人を欲しがっていることを知っていた瞬の身体は、既に熱を帯び、心臓の鼓動を速めていた。 「瞬、膝を立てて、脚をできる限り大きく開いてくれ」 からかわれているのは自分の方だということも知らず、瞬をからかっているつもりで、氷河が瞬に求めてくる。 「やだ。恥ずかしい」 「俺は見えてないんだから」 そう言って、瞬の両の足首を掴みあげ その身体を開かせると、氷河はたっぷりと唾液を含んだ舌で瞬の身体の中心を やがて、そこに、あの正直で反応の早いものを押しつけ 擦りつけてくる。 もう瞬の中に入ることを止めることは不可能な状況だということを瞬に示しながら、それでも氷河は瞬の返事を待つ素振りを見せた。 「うん、いいよ。入ってきて大丈夫」 言葉で、現在の自分の状態を氷河に知らせることに、瞬はためらいを覚えなくなっていた。 恥ずかしいことは恥ずかしいのである。 見えていないはずなのに瞬の身体を凝視しているような氷河の視線を感じて、瞬は反射的にその脚を閉じたくなることもあった。 だが、羞恥と拒絶の区別がつかない氷河の前で、そうすることは瞬には許されていなかったのだ。 「焦らさないで、早く……!」 瞬は正直に、自分の身体が氷河を欲していることを彼に伝えるしかない。 「 瞬とは逆に、氷河には嘘をつくことが許されていた。 しかし、氷河の身体は正直で――氷河の性器は一刻も早く瞬の中に入りたいと猛っている。 氷河との交合に痛みを感じない方がおかしいと理解すると、瞬の感覚はあまり痛みを痛みと認識しなくなっていた。 氷河が体内に押し入ってきた その瞬間から、目がくらみそうな歓喜に襲われる。 「いい……。ああ……いいっ」 そうして、嘘をつく権利を奪われた瞬は、正直に喘ぎながら その身体を反らせるのだ。 瞬の言葉を信じて、氷河は更に瞬の身体の奥に突き進んできた。 |