氷河が視力を取り戻すと、瞬はまた氷河を受け入れてくれるようになった。
ただし、非常に慎み深く。
今回の件で利口になった氷河は、瞬の慎み深さは、逆に男の欲を刺激するタイプの慎み深さだということを瞬に知らせないだけの賢明を身につけていた。

清貧と禁欲の誓願を立てた修道士のような顔をした瞬が、結局は恋人の愛撫に乱れ喘ぐようになる様は、氷河の欲望をいたく刺激した。
氷河の目が見えていないと信じている間に恋人に抱かれる歓喜と快楽に馴らされてしまっていた瞬の身体は、もはや元の彼に戻ることはできなかったのである。
我を失うと、瞬は恐ろしく大胆に喘ぎ乱れ官能の極致を示してくれるのだが、“我を失って”いる瞬は、その時の自分のありさまを、理性が支配する記憶域に記すことができないらしい。

そして、氷河は、
「僕、夕べ何か変なことした?」
と、朝を迎えるたび不安そうに尋ねてくる瞬に、
「そうだな。『氷河、愛してる』と2度ほど言ってくれたかな」
程度の当たり障りのないことを言って、瞬が羞恥に囚われるようなことは決して口にしないだけの分別を備えた男になっていた。
「それは――ほんとのことだから いい……」
瞬がほっとしたように小さな吐息を洩らす。

これほど可愛らしい恋人を一度は諦めようとした かつての自分が、氷河は今は不思議でならなかった。
二度と瞬を手放そうなどという考えを抱かないことを、自分自身に誓う。
一生に一度と確信できるほど熱烈な恋をしている男には、恋人に嘘をつかない誠意と、恋人のために嘘をつき通す誠意とが必要なのだ。
氷河はもちろん、誠意に満ち満ちた男だった。






Fin.






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