瞬の呪いがなぜ解けたのか、俺にはわからない。 永遠の愛を誓う王子の言葉が 呪いを破ったのか、あるいは王子サマらしからぬ俺の涙のせいなのか。 もしかしたら、瞬の涙を心から受け入れる者の存在が、瞬の呪いを解く鍵だったのかもしれない。 何が作用したのかはわからないが――ともかく、瞬はあの綺麗な涙を取り戻した。 瞬は、泣けることが嬉しいと言っては泣き、俺とキスできることが嬉しいと言っては泣き、風を快く感じるたび、花を美しく感じるたび、綺麗な涙を生んだ――生むことができるようになった。 それらの涙は、もしかしたら、瞬自身のためのものであると同時に、俺のためのもの――俺を安心させるためのものだったのかもしれない。 そして俺は、瞬の涙に触れるたび、瞬への恋を深めることになった。 最悪の再会だったが、一輝と出会った時にも、瞬は無事に(?)泣くことができた。 これは、瞬の兄を妬む俺の偏った考えによる推測なのかもしれないが、あの時もし瞬が泣くことができなかったなら、変貌してしまった兄の態度は瞬を傷付け――瞬の心は、それこそ真珠の粒のように固く閉ざされてしまっていたんじゃないかと思う。 泣くことができたから、瞬は耐えることができたんだ。 兄の変心、兄の冷たい言葉、兄の死という悲しみと、兄の生還の喜びにも。 涙というものがなかったら、感受性の強い瞬の心は、はるか昔に壊れてしまっていただろうと思う。 涙というものは神が人間に与えた 最も美しく優しい奇跡で、瞬が俺に見せてくれる 最も美しく優しい奇跡だ。 その奇跡に毎日触れることのできる俺を、俺はとても幸運な男だと思う。 ただ一つだけ俺に残された問題は、俺がいつ瞬と同じベッドでその奇跡を享受できるのかということだけ。 我ながら間抜けの極みだと思うんだが、ギャラクシアンウォーズ、殺生谷、一輝の復活と、慌しい日が続き、俺はすっかりその機会を逸してしまったんだ。 瞬が俺を特別に好きでいることは事実のようだし、俺が瞬を特別に好きでいることを瞬が知っていてくれるのも事実らしいんだが、俺がさりげなく水を向けても、瞬は一向に俺の誘いに乗ってくる気配を見せない。 瞬は、どうやら異様に羞恥心が強く、しかも慎重な人間らしくて――。 瞬へのアプローチに失敗するたび、俺は自身の無力に失望し がっくりと肩を落とすことになるんだが――いつか訪れる(はずの)感動の一夜のために、俺は Fin.
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