余の計画は、実際、快哉を叫びたくなるほど順調に進んでいた。
天英星の冥闘士の法廷で、自らの内にあった“戦いに対する迷い”を“人間に対する絶望”に転じさせられた瞬は、ごく自然に余の支配を受け入れた。
冥界に紛れ込んだ黄金聖闘士が、瞬の迷いを理のない理で断じていたが、そんなことで消えるような迷いなら、瞬の迷いには価値がなかったろう。

だが、あの黄金聖闘士(だったのであろうか?)は、実に愉快な存在ではあった。
『敵とはいえ多くの者を傷付けたことが罪になるのなら、この世の邪悪をすべて片付けてから、神の裁きを受けよう』などという、おざなりな言葉を平気で吐き出す無思慮と無責任。
人間の汚れの根源を見ようともせずに、瞬の迷いを取り除くことができると、あの者は本気で考えていたのだろうか。
人間たちが皆 そのように浅はかな考えをしか持つことをしないから、人の世はここまで汚れたのだ。
あの者は、実に人間らしい人間だった――粛清されるべきと余が考える人間の典型だった。
余が軽蔑する人間の醜さと愚かさを具現した男。
そのような男の言葉が、瞬の真底に届くわけがない。

もちろん、余の瞬の迷いは純粋だった。
だからこそ、瞬は余のものになった。
余のものになれば、瞬はもう迷わなくていい。
その美しさ、清らかさを余に捧げれば、瞬は、すべての人間のために すべての人間を滅ぼすという大善が為せるのだから。

瞬がその心身に余を受け入れた時、余は、これでアテナに勝てると思った。
今度こそ『死』は『愛』に勝利する。
アテナの奉じる不純な愛というものに、人間たちの汚れを滅する死は勝利するのだ――と。
絶望は希望に打ち勝ち、生きている人間たちが『絶望』と信じているものが、新しい清浄な世界では『希望』と呼ばれるものになる。
真に美しい世界の実現を、余は確信していた。






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