『愛しているから』という一事を大義名分にして瞬にこんな無体を強いることが許されるのかと、氷河が罪悪感を覚えるほどに、瞬のその姿は悲痛で痛々しいものだった。
だが、氷河は、自分で自分を抑えることができなかったのである。
瞬は、卑しい奴隷を“人間”にしてくれる唯一の存在。
完全に自分のものにしなければ不安でならない。
ここで情けに負けて瞬を手放し、その隙に万一他の誰かに奪われるようなことがあったなら――そんな小さな可能性を思うだけで、氷河はそのまま気が狂ってしまいそうなほどの怒りに支配された。

「我慢してくれ……。俺は、可能な限りおまえを俺のものにしたい。俺はおまえのものだ。だから、我慢してくれ」
「僕の……んっ」
大きく胸を上下させながら、瞬の唇が言葉を声にしようとして喘ぐ。
「ぼく……のもの……氷河……氷河が?」
瞬は声を発することで、全身を貫く痛みから僅かではあったが意識を逸らすことができる事実に気付いたらしい。
もちろんそれは非常に困難な作業だったろうが、瞬は持てる力をすべてかき集め、あえてそれをした。

「そうだ。わかるだろう。おまえの中に俺が……う」
突然、瞬の身の内の肉と、ほぼ力を失ってしまっているようだった瞬の膝が、氷河を締めけてくる。
「瞬……?」
「離さない」
不思議に落ち着いた声音でそう告げてから、瞬は、氷河の背と首に すがるように その細い腕を絡ませてきた。
抱きしめても抱きしめても抱きしめたりないと訴えるように――蔓を伸ばそうとしている植物のように、瞬の腕が氷河にまとわりつく。

「ぼ……くは、氷河が好きなの。僕が本当に姫だったらどんなに……って、ずっと思ってた。あ……あっ……氷河……僕の……ああんっ」
瞬の身体を責め苛んでいた痛みは、いつのまにか違う何かへと変化してしまっていたらしい。
瞬は、うわ言のように何度もその言葉を繰り返した。
これは僕のものだ――と。

瞬はどうみても半ば以上 意識を手放している。
氷河の愛撫で色づいた肌は熱を帯びて潤み、まるで肌自体が歓喜の声をあげているようだった。
氷河を受け入れている場所は、内奥はぬめぬめとぬめり、入り口は小刻みに痙攣して――氷河は二種類の刺激に攻め立てられていた。
動くことも ままならない。
というより、その必要がなかった。
瞬の身体は氷河を包み、覆い、絡みつき、激しく嬲り、それだけならまだしも、氷河が限界に達しかけると その動きを緩やかに変化させることさえした。

「う……」
抜き差しもしていないのに、氷河の肩は大きく上下していた。
目を開けていることにさえ、力が要る。
それほどに瞬の愛撫――それを愛撫と言っていいものかどうか――は巧みだった。
「あっ……あ……ああ……!」
それでいながら、いつまでも達することを許してくれない瞬に耐えかねた氷河が律動を始めると、瞬は傷付いたように悲しげに、そのこめかみから涙を伝わせて切なげに喘ぎ叫ぶのだ。

果てた瞬間の開放感と落胆を、氷河は自覚することができなかった。
そんなものを感じている余裕は、氷河には与えられなかったのである。
瞬は、氷河が達するとすぐに、新たな刺激で氷河を昂ぶらせてきた。






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