結局、傷付いた敵の言葉に傷付いた瞬の心を癒すのは、瞬に傷付いてほしくないと願う人間が瞬を抱きしめてやること、瞬に傷付いてほしくないと願う人間がいることを瞬に知らせてやること――だったんだろう。
瞬は、誰かのために生きていたい人間だから、そういう人間がいることを知れば、その人間のために必ず立ち直る。
実際 瞬は、あっというまに立ち直ってみせた。
よりにもよって、こんな俺のために。

「なんだよ! 結局 俺たちは、氷河と瞬のラブシーンを見学するために、ギリシャくんだりまで呼びつけられたのかよ!」
帰りのジェットヘリの中で、星矢は不満たらたらでいたが、星矢の不機嫌は、帰国後俺がプレゼントしてやったポテトチップス一袋で氷解した。
俺は、もちろん紫龍にも、上等の二鍋頭酒を二甕 奉納した。
窮状での親切には倍返しが相当だろう。
俺は、機嫌がいい時には礼節を重んじる男なんだ。

そして、瞬は――瞬は、ずっと俺のことが好きだったのだと、実に嬉しいことを俺に言ってくれた。
その好意は、ガキの頃、マーマの自慢ばかりしていた俺が、ある日突然 口をつぐんでしまった時に、瞬の心の中に生じたらしい。
俺のマーマの話を聞くのが好きだった瞬は、俺が突然無口になってしまった理由を俺に尋ねたんだそうだ。
ガキの俺は、
「瞬が瞬のマーマの話をしないから。俺は瞬の気持ちを考えてなかった。ごめん」
と答えた――と、これは瞬から聞いた話。

ほんの小さなガキだった頃の方が、俺はよほど瞬の心を思い遣ることができていたらしい。
俺にそう言われて、瞬は泣いて泣いて――そんな瞬を、俺はただ抱きしめてやることしかできなかったんだろう。
俺はいつまで経っても涙の止まらない瞬を、ずっと抱きしめてやっていたんだそうだ。
俺は、そんなこと、すっかり忘れていた。

「忘れちゃってたなんて、ひどい。僕はあの時からずっと氷河が好きで、いつも氷河を見ていたのに!」
瞬は時折 拗ねたような目をして、笑いながら俺にそう言う。
瞬の恋の告白は本当に可愛い。
瞬にそう言われるたび、俺は瞬を抱きしめずにはいられなくなる。
そして、俺の一世一代の恋の告白を瞬に聞かれずに済んでよかったと思うんだ。






Fin.






【menu】