そうして再び生者の世界で恋する人の姿を見ることができた時、二人の胸中にどんな思いが渦巻いたか。 二度と会うことはできないと思っていた人の姿を再びその目に映すことができたのですから、もちろん二人はとても感激しました。 生きている時にだって世界でいちばん美しいと信じていた人は、今は光よりも眩しく輝いて見えました。 でも、だからこそ、死んでしまった自分が切なく、悲しく、苦しくかった。 けれど、二人はその思いを言葉にすることもできません。 それは神様たちに固く禁じられたことでしたから。 そして、だからこそ、二人の胸は、あふれるほどに様々の思いで いっぱいになってしまったのです。 なのに、二人は、自分の大切な人に『愛している』と言うことを禁じられていました。 本当は――その思いを伝えられれば、二人は他に望むことはなかったのですが。 『愛している。あなたに出会えて幸せだった』 と告げることさえできれば、死はいつも覚悟していたこと。 二人はそれだけでよかったのです。 だというのに。 それだけのこと――それだけのことが、今の二人には決して してはならぬことなのでした。 「おっはよー」 「ここのところ実に平和だな。うっかり戦い方を忘れてしまいそうだ」 神様たちが言っていた通り、星矢と紫龍は、自分の仲間たちが死んでしまったことを忘れてしまっていました。 つい先日あった戦い――氷河と瞬が命を落とした戦い――も、今の彼等の記憶の中では“なかったこと”になっているようでした。 「そうだな……」 「うん……。でも、きっとそれはいいことだよ……」 1週間が過ぎれば、いずれ戻る記憶。 氷河と瞬は、仲間たちに自分の死を無理に思い出させて、彼等と別れを惜しもうとは思いませんでした。 二人は、星矢と紫龍にはいつも、できる限り笑っていてほしかったですし、二人はそういう仲間たちを見ていることで心が慰められもしましたから。 それにしても、心を伝え合うことができないというのは、実に不便なことです。 人間は、ただそのためだけに――自らの思いを他者に伝えるためだけに、“言葉”という道具を発明したといっても過言ではないのに、その道具を使うことができないなんて。 何も言わずに ただ見詰め合い、互いに互いを抱き合う――。 生きていて、未来のある恋人同士なら、それでもよかったでしょう。 けれど、二人に与えられた時間はたった7日間。 7日間ずっと無言で抱き合っているなんて、今の氷河と瞬には 不毛以外の何ものでもありませんでした。 やがて、今度こそ本当に永劫の別れの時がきて、自分は愛する人をこの世界に残し、ひとりで死の国に赴かなければならないというのに、そんな、生きている時にもできていたことを繰り返して、特別なことを何ひとつしないなんて。 これが、星矢や紫龍に対してのことだったなら、 「これからも うまくやれよ」 の一言で用は済みます。 彼等はそれで死んだ仲間の気持ちをわかってくれるでしょうし、その気持ちを酌んで、これからも強く生きていってくれることでしょう。 星矢と紫龍は、氷河と瞬に そう信じさせてくれる素晴らしい仲間たちでした。 けれど、仲間と恋人は違います。 恋人には、やっぱり『愛していた』と伝えたい。 出会えて どんなに嬉しかったか、二人でいる時 自分がどんなに幸福だったかを伝えて、そして、『ありがとう』と言いたいのです。 伝えたいのに、伝えられない。 いちばん伝えたいことを、いちばん大切な人に伝えられない。 恋人たちから『愛している』の言葉を奪うなんて、本当に残酷なことです。 死んでしまったという事態だけでも十分に不運な者に どうしてこんな残酷な禁忌を課したのかと、氷河と瞬は神様たちを疑い、恨みました。 愛している人に『愛している』と伝えることができなかったら、人間が生きていることにどんな意味があるでしょう。 生き返ったって、それこそ無意味です。 無意味だと、氷河と瞬は思いました。 |