「6年振りか」 「……うん」 6年。 恋の情熱が冷め、『なぜ自分はあんなにも夢中で この人に恋していられたのだろう』と訝ることができるようになるには十分な時間。 それほどに長い時間が、二人の間に横たわっている。 それでも俺たちの声は(それでも僕たちの声は)震えていた。 「元気でいたか」 「なんとか」 会話が続かない。 胸がいっぱいで。 俺たちには(僕たちには)言わなければならないことが たくさんあるはずなのに。 『すまなかった(ごめんなさい)』 『あの頃はよかったな(あの頃は幸せだったね)』 『どうして俺たちは、あんなふうに傷付け合うことしかできなかったんだろう(どうして僕たちは、あんなふうに傷付け合うことしかできなかったの)』 『おまえは あの頃、俺を好きでいてくれたのか?(氷河は あの頃、僕を好きでいてくれたの?)』 言わなければならないこと、確かめたいことはたくさんあったのに、結局俺は(結局僕は)何も言えなかった。 何も言えずに、互いの瞳を見詰め合う。 そして、瞬の瞳の中に、幸福に輝いていた あの眩しい時のかけらを見付けだして――俺は胸を締めつけられ.ような痛みに襲われた(そして、氷河の瞳の中に、幸福に輝いていた あの眩しい時のかけらがあることを認めて――僕は、切なさのあまり泣きたくなった)。 誰よりも好きな人と一緒にいたのに―― 一緒にいられたのに、傷付け合ってばかりいた あの頃。 だが、それでも、確かに幸福で、眩しく輝いていた あの頃。 今の俺は、あの眩しさを思い出し、俺たちが幸福だった時を懐かしむことしかできないのか(今の僕は、あの眩しさを思い出して、僕たちが幸福だった時を懐かしむことしかできないの)。 俺の心は今も、こんなにも瞬に囚われたままなのに(僕の心は今も、こんなにも氷河にだけ向かっているのに)。 今の俺は――(今の僕は――)。 その思いが、ただただ懐かしい恋人を見詰めていることしかできずにいた俺の喉と唇に、声と言葉を作る術を思い出させた(その思いが、泣きたい思いで 氷河の青い瞳を見上げていることしかできずにいた僕の喉と唇に、声と言葉を作る術を思い出させた)。 「おまえは今は――」 俺以外に誰か好きな奴がいるのか。 「氷河にはもう……」 僕以外に好きな人がいるの? 言いかけた言葉を、俺は(僕は)最後まで言い終えることができなかった。 6年――6年だ(6年――6年だよ)。 それは、長すぎる別れだ。 二度と取り戻すことのできない時間。 決して埋めることのできない時間。 眩しく輝くいていた幸福な あの時に、どうして俺は、あんなに子供だったんだろう――(眩しく輝いていた幸福な あの時に、どうして僕は、あんなに子供だったんだろう――)。 どうして俺たちは(どうして僕たちは)互いに互いを傷付け合うことしかできなかったのか。 もう二度と瞬を泣かせないために(もうこれ以上 氷河を傷付けないために)、俺は あの時をやり直そうなんてことを考えてはならないんだ(僕は あの時をやり直したいなんて夢を見ちゃいけないんだ)。 「僕たち、もう……」 なのに、僕は自分の涙をとめられない。 「瞬」 なのに、俺は瞬を抱きしめずにはいられない。 「氷河……僕……僕、ずっと寂し――」 「瞬……」 泣かないでくれ。 耐えられなくなる。 俺はまた、おまえを俺のものにしたくなる。 取り戻すことのできない時を、取り戻したくなる。 取り戻せるわけがないのに。 6年の空白は恋人たちにとって長すぎる時間だ。 俺の胸の中で泣きじゃくる この可愛い生き物を、俺は二度と俺のものにしてはならないんだ。 でも、僕は、今でもこんなに氷河が好きだよ! |