沙織さんは、氷河に義足を作ってくれた。 「ごめんなさいね。しばらくは これで我慢してちょうだい。ES細胞かiPS細胞か――いずれ、必ず 本物の脚を取り戻させてあげるから」 って、沙織さんは済まなさそうにしてたけど、氷河に与えられた第二の脚は多分、現在では最新最高級のものだったろう。 今時の義肢って、随分性能がいいんだな。 氷河の もともとの身体機能のレベルや運動能力のせいもあるんだろうけど、普通に日常生活を送ってる分には、氷河の脚が拵え物だなんてわからないくらいだ。 氷河は確かに動くスピードは遅くなったけど(とはいっても、健康な一般人より よっぽど素早く動けるし、あろうことか走ることもできてる)、その分、小宇宙の力が増大していた。 敵を追っていくことはできないけど、攻撃を仕掛けてくる敵は、氷河の半径10メートル以内に入ってしまったら、次の瞬間には もう氷河の敵として存在することができなくなっている。 雑魚ならともかく、俺たちの敵は自分の力に自信を持ってて、攻撃的な奴がほとんどだからな。 氷河が敵を小馬鹿にしたように ふっと笑ってみせれば、プライドを傷付けられた敵さんは自分から氷河の攻撃範囲内に飛び込んできて、あっさり氷河の凍気の餌食になっちまうんだ。 飛んで火に入る夏の虫――の真冬版。 なんで 奴等は、氷河の力の見極めもせず、むざむざ氷河の罠の中に自分から足を踏み入れてくるんだろうって、俺は不思議でならない。 俺なら絶対に、戦う気満々の氷河の側に近寄ろうなんて考えないし、それ以前に、絶対氷河を敵にまわしたりしねーぜ。 なんたって、命はたった一つしかないんだ。 大事にしたいもんな。 うん。 氷河は、以前より格段に強くなっていた。 小宇宙も、心も、それから多分、瞬を思う気持ちも。 そうだな。当社比2.5倍くらい。 瞬は、今では 氷河に永遠を誓うことはなくなったけど、代わりに『僕は今、氷河がとても好きだよ』という言葉を、氷河に繰り返し告げるようになった。 氷河は、永遠を誓われるより、嬉しそうにしている。 Fin.
|