さて。 火の国の王宮には、氷の国の王妃様の死を、氷河王子と同じくらい悲しんでいる人がいました。 それは もちろん、命の花の力によって命を永らえた瞬王子です。 本当の お母様のように優しかった王妃様。 その大好きな王妃様の命が自分のせいで失われてしまったのですから、瞬王子の悲しみは とてもとても深いものでした。 その上、その悲しみには苦しみや罪悪感が混じっていました。 そんな瞬王子を 深い悲しみ苦しみから立ち直らせたのは、大好きな氷の国の王妃様の最期の願い。 『私がしてやれない分も 私の氷河を幸せにしてやってちょうだい』という言葉でした。 自分が生きているのは、氷の国の王妃様の最期の願いを叶えるため。 瞬王子は、そう考えたのです。 とはいえ、氷の国の王妃様が亡くなった時には まだ小さな子供だった瞬王子には、何の力もなく、氷河王子のために何ができるわけでもなかったのですけれど。 瞬王子にできたのは、氷河王子様というのは どんな王子様なのかしらと想像することだけ。 優しく綺麗だった氷の国の王妃様に似ているのかしらと、夢見ることだけでした。 でも、子供はやがて大人になります。 時間は未来に向かってしか流れないものですからね。 氷の国の王妃様の死から10年後。14歳になった時、瞬王子は氷河王子の許に行く決意をしました。 氷の国の王妃様の願いを叶えたいと考えているだけでは、その願いを叶えることはできません。 氷河王子の側にいなければ、自分は氷河王子のために何をしてあげることもできないと、瞬王子は考えたのです。 その頃には、大切なお母様を奪った火の国の王子を氷河王子が憎んでいるという話は、瞬王子の耳にも入っていました。 となると、瞬王子が 火の国の王子として氷河王子の側に行くことは まず不可能です。 氷河王子が火の国の王子を側に近付けることがあるとは思えませんし、無理にそんなことをしたら、それは氷河王子の心を傷付けることにもなりかねません。 でも、どうしても氷の国の王妃様との約束を守りたかった瞬王子は、氷河王子ではなく、氷河王子の叔父君――現在の氷の国の国王陛下に お願いしたのです。 身分を隠して、一介の家来として氷河王子に仕えさせていただくことはできませんか? ――と。 幸い 氷の国のカミュ国王は、友好国同士である氷の国と火の国の王子たちが仲良くなることこそ好ましく、瞬王子に向かう氷河王子の憎しみをどうにかしたいと考えていたところでした。 氷の国の王妃様が瞬王子をとても愛していたことも知っていましたので、カミュ国王は、王妃様同様、瞬王子に好意を持っていました。 何より、亡き王妃様の願いを叶えたいという瞬王子の健気な心に打たれて、カミュ国王は瞬王子の願いを快く引き受けたのです。 カミュ国王の計らいで、瞬王子は、氷河王子付きの侍従として、氷の国の王宮にあがることになったのでした。 10年の間、会える時を夢見ていた氷河王子。 瞬王子は、ついに憧れの人に会えることになったのです。 |