グラード財団コンプライアンス統括部 内部監査3課。 それが氷河に提示された異動先だった。 海外事業部オセアニア地区貿易課から。 コンプライアンス統括部は その名の通り、 内部監査1課は、日本国内の財団傘下の各グループ会社、それらに付随した支社・営業所・代理店等の内部監査を担当する部署。 内部監査2課は、財団傘下の海外法人、それらに付随した支社・営業所・代理店等の内部監査 及び、海外に新法人を置く際の事前調査と各国公共機関への根回しを担当する部署。 内部監査3課は、1課2課に該当しないコンプライアンス案件を担当する部署。 ――ということになっていた。表向きは。 つまり、実情は少々 違っていた。 1課2課は名目の通りの部署なのだが、内部監査3課はそうではなく、財団及び財団傘下法人に在籍する 持て余し者を収容するための部署――であるらしい。 3課に配属になる者は、いわゆる企業の 別名、人材の墓場。 氷河は財団内にそういう部署があるということは知っていたが、その別名は知らなかった。 内部監査3課への異動も、社員の能力に より適した業務を模索するため、もしくは 社内キャリアを積ませるための、ごく普通の異動だと思っていた。 海外事業部の部長からもそういう説明を受けた。 だが、事実はそうではなかったのである。 氷河のコンプライアンス統括部への異動が発表になると、海外事業部の同僚たちは誰もが、 「2課か? それとも3課?」 と訊いてきてきた。 そして、3課だと聞くと、一様に哀れむような顔になり、 「まあ、仕方がないか。損失1億超だからな」 と溜め息をつく。 その中の一人から、氷河は内部監査3課が『人材の墓場』と呼ばれる部署だということを 教えてもらったのである。 そして、自分は、どうやら そこに左遷されるらしいこと、しかも その左遷は 近い将来の退職を視野に入れたものであるらしいことを。 もっとも、氷河は、それを聞いても あまり衝撃は受けなかった。 ただ、自分はうまく一般人の中に紛れ込めていると思い込んでいただけだったのだと、己れの過信を自嘲しただけで。 |