瞬は、仲間たちに宣言した通り、その日のうちに、最先端技術搭載の玩具を沙織に返却したのである。
その際、沙織に意見を求められた瞬は、
「これがあると、僕が誰をどれくらい好きでいるのかが星矢たちにばれてしまうから、すごく困るんです」
と、その道具の弊害を正直に沙織に告げた。
「あなたが誰をどれくらい好きでいるのかが ばれてしまう? あら、それは重大な人権侵害問題に発展しかねない不具合だわね。やはり、この技術は 本来の感情障害治療分野に戻した方がいいかしら……」
沙織は そんなことを言いながら、彼女にしては大人しく(?)人間測定器の返納を受け付けてくれたのだった。


これで、人間測定器によって引き起こされた一連の騒ぎは終結した。
そう瞬は思い、瞬の仲間たちも それは同様だった。
星矢は少々 最先端技術搭載玩具に未練があったようだったが、それでも とりあえずは。
アテナの聖闘士たちは油断していたのである。
沙織とは長い付き合いだというのに、彼等はすっかり失念していたのだ。
グラード財団総帥城戸沙織は海千山千、決して一筋縄ではいかない女傑。
彼女が大人しく引き下がるのは、彼女が既に目的のものを手に入れた場合のみなのだということを。


それから数ヶ月後、グラード財団の関連企業であるグラード・トイコンフェクト社が、“ラブラブ・ライブラ”という商品名の、訳のわからない玩具を発売した。
それは、天秤の形をした本体の左右から釣り下がった皿の部分に 一組の男女が それぞれの手をかざすと、取りつけられているセンサーが両者の心拍数や体温、発汗量の変化を測って、二人の愛情量を数値化するという、いわく言い難い玩具だった。
測定後、より大きな変化を見せた側の天秤が下がり、どちらがより強く相手を思っているのかが示される。

測定対象1000人まで、測定し合った相手と自分のデータを パソコン、携帯電話、スマートフォン等にダウンロードし、各人の自分に対する興奮度をグラフ化したり順位づけしたりできる無料ソフト提供が受けたのか、あるいは 直截的なコミュニケーション不足の世の中で、同時に一つの玩具の前に立たなければデータ測定ができないという不自由さが受けたのか、はたまた、自分の意思判断に自信を持てない人間たちが 客観的かつ具体的な数字によって示される愛情に安心感を覚えることになったのか。
その理由は定かではないが、ラブラブ・ライブラは発売1ヶ月で20万台を売るという、玩具業界では昨今稀な大ヒット商品になった。

玩具発売後まもなく、某民法テレビ局が、公募で選ばれた複数名のファンが ゲストのアイドルを前にして いかに興奮しているかを、ラブラブ・ライブラによる測定で競うバラエティ番組の放映を開始。
異性・友人との測定データの蓄積数が 自分が孤独ではないことの証になるとでもいうかのように、特に中高生がラブラブ・ライブラに熱中し、それを社会現象として取り上げた某公共放送テレビ局が特集を組む始末。
まさに世も末、末期的だと、アテナの聖闘士たちはラブラブ・ライブラのヒットを嘆くことになったのだったのである。

「犯罪係数よりは ましかもしれないけど、愛情を測るなんて……」
沙織の抜け目のなさに、瞬は渋面を作ることになったのだが、沙織当人はどこ吹く風。
彼女は、アイデア提供の礼だと言って、ラブラブ・ライブラに星座情報を加味できる ラブラブ・ライブラ第2弾“ラブラブ十二宮”を、謹んで瞬に贈呈してくれたのだった。
機械が算出する数字より、直接触れ合っている方が はるかに互いの愛情を実感できることを知っている瞬は、未だにラブラブ十二宮のお世話にはなっていないが。






Fin.






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