「シュンに、おまえ等と仲直りをしてくれと言われた。シュンの頼みをきかないわけにはいかないので、そうすることにした。まあ、おまえ等が 俺のために あれこれ画策したんだということは わかっているしな。二度と 詰まらん小細工はするなよ」 ヒョウガが そう言って、セイヤたちの前に現れたのは、翌日の正午を過ぎてから。 ヒョウガの傍らにはシュンがいて、 「汚れて堕落するって、すごく気持ちいいことだったんだね」 と、相変わらず澄んで清らかな瞳を輝かせ、嬉しそうにセイヤたちに報告(?)してくる。 セイヤとシリュウは、ヒョウガとシュンが何を言っているのか理解できなかった。 もとい、理解はできたのだが、自分たちの理解が正しいのかどうか、自信を持てなかった――信じられなかった。 彼等は、ヒョウガがシュンに恋をしているという事実を知ってはいたが、ヒョウガが このシュンを相手に そんなことができるとは思ってもいなかったのだ。 汚れ堕落することが気持ちのいいことだったという事実を知っても、シュンの瞳は澄んだまま。 セイヤとシリュウには信じられなかった――到底 信じられないことだった。 だが、ヒョウガは本当にそれをしてしまったらしい。 「俺は貴様等の希望通り、宮廷の貴婦人たちの体面維持の手助け事業はやめて、以後は 清廉潔白な生活を心がけることにする」 ヒョウガの更生宣言は、セイヤたちの求めていたもの。 その言葉を手に入れるために、彼等は、はるばるプロヴァンスの田舎からベルサイユまでやってきて、“詰まらぬ小細工”をしたのだ。 だが、まさか その宣言に、 「俺はもう、シュン以外の何も欲しくない」 という言葉が付け足されるなどとは、セイヤたちは思ってもいなかったのである。 ヒョウガの更生宣言は嬉しい。 亡き両親への複雑な思いのせいで、無理に我が身を自堕落な生活の中に置いているヒョウガを もう見ずに済むのだ。 それは本当に喜ばしいことだった。 そうなることを、彼等は望んでいた。 だが、セイヤたちは、野の百合のように清らかな弟を イッキが掌中の珠のように溺愛していることも知っていたのである。 「な……なあ、シリュウ。シュンの力でヒョウガを更生しようって考えたのは俺たちだよな? それって、ヒョウガをシュンに近付けたのが俺たちだってことになるのかな?」 「多分……」 「イッキが このこと知ったら、俺たち、どうなるんだ?」 「言うな。考えるのも恐ろしい」 昨日までの、どこか 投げ遣りで すさんでいるような気配が すっかり消え去り、いかにも 幸福に満ち満ちているような目でシュンを見詰めているヒョウガ。 汚れ堕落したはずなのに、以前より一層 澄んだ瞳で、そんなヒョウガを見詰め返しているシュン。 幸福そうな二人の姿を視界に映しているセイヤとシリュウの背筋は 今、死刑宣告を受けた囚人もかくやとばかりに 冷たく凍りついていた。 Fin.
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