「俺、強くなって 母さんを守りたい。聖闘士になって、戦う力を持っていないせいで虐げられている人たちを守りたい」
聖域に帰った俺は、故郷の島であったこと、島で知らされた思いがけない事柄を おやっさんに報告して、そして、聖闘士になるために頑張ってみるって、おやっさんに決意表明をしたんだ。
おやっさんの仕事も、できるだけ これまで通りに手伝うつもりだけど、聖闘士になるための修行に時間を割かせてくれ――って。
おやっさんは嬉しそうに破顔して、
「聖闘士になれても なれなくても、おまえが そう思うようになってくれたことが誇らしい」
と言ってくれた。
「これで おまえも本当に聖域の一員だ」
って。

おやっさんに『誇らしい』と言ってもらって、より誇らしさを感じていたのは、きっと おやっさんより俺の方だった。
(もしかしたら聖闘士になる夢破れても)30年以上、おやっさんが聖域で働き続けていたのは、おやっさんの中に、地上の平和と そこに生きる人々の命を守りたいっていう強い思いがあったからだったろう。
その思いは、自分が聖闘士になれないことがわかってからも、おやっさんの中から消えることはなかったんだ。
そういう人に『誇らしい』なんて言ってもらえたら、俺の方こそ誇らしいぞ。
とはいえ、
「なら、氷河さんに指導してもらったらどうだ? きっと優しく指導してくれるぞ」
なんて、たちの悪い冗談を言ってくれる おやっさんには、さすがに俺も顔を歪めたけどな。

「氷河の指導なんか受けたら、絶対 根性が 捻ね曲がる。だいいち、恐いじゃないか。どうせ指導を仰ぐなら、俺は 断然瞬さんがいい」
それは、一介の聖闘士志望の若造が、黄金聖闘士の指導を仰げるはずがないことを承知した上での軽口だったんだけど、おやっさんも 俺のその気持ちは わかってくれてるみたいだった。
「そりゃ、そうだ」
大真面目な顔で頷いて、おやっさんは 派手に吹き出した。
そりゃ、そうだよ。
戦っている瞬さんは綺麗だった。
綺麗で強かった。
母さんを小宇宙で包んだ瞬さんは天使のようで、慈愛の女神のようで、俺が あんなふうになれるとは思わないけど、でも どうせ目指すのなら、氷河みたいな根性曲りの聖闘士より、瞬さんだよな。






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