「僕は……こんな力を持っているのは、兄さんの他には 僕と氷河だけなんだと信じてたの。この力は、僕と氷河を結びつけるために 天から授けられた力だと思ってたんだ。なのに、そうじゃなかった。そうじゃないって 氷河が知ったら、氷河は僕を置いて 星矢とどこかに行っちゃう。僕は それが恐かったの……」
だから その力を持つ星矢に 氷河を会わせたくなかったのだと、瞬は、氷河と星矢の間で告白した。
漁師小屋の中は、瞬が作った嵐のせいで滅茶苦茶。
星矢が昼食にしようとしていた海老は どこに飛んでいったのか、そのヒゲが1本、星矢の手に残っているばかり。
瞬は、漁師小屋の外の砂浜に へたり込んで、こうなってしまった事情が よく飲み込めていない氷河と星矢に、涙ながらに告解をすることになった。
事情を すべて打ち明けられても、氷河はまだ 頭が混乱したままだったが。

「同じ力を持っていると言ったって、こいつとおまえは別人だろう。なぜ 俺が おまえを置いてどこかに行ってしまうなんて馬鹿なことを考えられるんだ。おまえは、俺が 力の秘密の共有のためだけに おまえと一緒にいたと思っているのか」
瞬の前に片膝をつき、氷河が、瞬の考え違いを指摘する。
なぜ そういう考えになるのか、実を言うと、氷河には瞬の思考の経路が まるで理解できていなかったのだが。
「ち……違うの?」
と瞬に問い返され、氷河は軽い目眩いに襲われた。

「違うに決まっているだろう」
「じゃあ、どうして氷河は これまで僕と一緒にいてくれたの」
どうして そんな根本的な質問が出てくるのだと、氷河こそが瞬に問い質したかったのである。
「どうして……って、毎晩 一緒に寝てて、おまえは そんなことも わからんのか!」
「あの力が 僕だけが持つものでなくても、氷河は僕と一緒に眠ってくれたの」
目眩いが頭痛に変わる。
尋ねてくる瞬の表情が真剣そのもので、その瞳が涙に濡れていなかったら、氷河は、『そんなことも わからないなんて、おまえは馬鹿か』と、瞬を怒鳴りつけてしまっていたかもしれなかった。
「当たりまえだろう。俺は、おまえが俺と同じ力を持っているから、おまえが好きなんじゃなく、おまえが綺麗で優しいから好きなんだ。力があるとか ないとか、そんなことは俺たちが出会うためのきっかけにすぎない。そんなことは どうでもいいことだ。おまえに力があっても なくても、俺はおまえを好きなままだ」

涙に濡れた瞳で、瞬がぽかんと氷河を見上げ、見詰める。
「そんなことは 考えるまでもないこと。基本中の基本だぞ」
「あ……」
幾度も幾度も瞬きをして、瞬は氷河の言葉の意味を懸命に考え、更に幾度も幾度も瞬きをして、やっと その意味を理解したらしい。
最後に 恥ずかしそうに泣き笑いをして、瞬は 氷河に、
「ごめんなさい……」
と謝ってきた。
それから星矢に向き直って、星矢にも謝罪をする。
「ごめんなさい。僕、星矢に氷河を取られると思って……」
「こんなの、取るかよ」
星矢が 嫌そうな顔で そう言い、
「俺だって、こんなのに取られてたまるか」
氷河は もっと嫌そうな顔で 星矢に応じ――かくして、、三人の間には めでたく和解が成立したのである。






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