その金色の髪の子はね、突然 知らない国に連れてこられて、とても心細い思いをしているの。 だから、瞬ちゃん、その子に優しくしてあげてね。 その子は、すぐに瞬ちゃんを大好きになる。 でも、照れ屋さんだから、瞬ちゃんに素直に好きって言えなくて、ぶっきらぼうな態度をとるかもしれないけれど、どうかわかってあげて。 その子が瞬ちゃんに ぶっきらぼうな態度をとっても、それは瞬ちゃんのことが大好きだからで、大好きすぎて、そんなふうな態度をとってしまうの。 本当は、とても優しい子よ。 瞬ちゃんも、きっと その子を好きになる。 瞬ちゃんは、その子の優しさが わかる子だから。 瞬ちゃんと その子は、一度 長い別れを経験するけど、大人になってから再会するの。 大人になっても、その子は瞬ちゃんを大好きなままよ。 いいえ。大人になって再会して、もう一度 瞬ちゃんを好きになる――と言った方が正しいかしら。 その時には、瞬ちゃん。 どうか、その子の思いを受けとめてあげて。 でないと、瞬ちゃんは、その子を不幸にするの。 その子を とっても悲しませるのよ。 瞬ちゃんが好きになってくれれば、それだけで、その子は世界でいちばん幸せな人間になれる。 不幸な人をなくしたいっていう、瞬ちゃんの望みが一人分、必ず 叶えられるの。 その子は不器用なところもあるけど、まっすぐな心を持っていて、意地っ張りなところもあるけど、その分 純粋で……。 瞬ちゃん。 その子は、幸せにならなければならない子なの。 そして、その子を幸せにしてあげられるのは、瞬ちゃんだけ。 瞬ちゃんの優しい、清らかな心だけ。 瞬ちゃん。 瞬ちゃんが その子を愛してくれたら、瞬ちゃんは 世界の平和や そこに住む多くの人々の命と幸福を守るという望みを叶えることで得られる大きな幸福とは違う、瞬ちゃんという一人の人間の小さな幸せを手に入れることができるわ。 瞬ちゃん。 人間にはね、その二つの幸福が必要なのよ。 自分が生きている世界の幸福と、自分だけの幸福。 世界が平和であることの幸福と、自分だけが感じる喜びで得られる幸福。 世界を愛することで得られる幸福と、誰かを愛することで得られる幸福。 その二つを手に入れることで、人は本当に幸福になるの。 その どちらかしか考えられないと、その どちらかしか手に入れられないと、人は迷い、不幸になる。 その子はね、瞬ちゃんを支えてあげられる。 今はまだ、その子の心は 瞬ちゃんより幼くて、打ちひしがれているけれど、きっと 瞬ちゃんの綺麗な心を、一層 綺麗にしてくれる。 瞬ちゃんの優しい心を、一層 優しくしてくれる。 瞬ちゃんの清らかな心を、一層清らかにしてくれる。 それが その子の望みで、その子の幸福だから。 その子は、その望みを叶えるために、どんなことでもするでしょう。 瞬ちゃん。 その子に優しくしてあげて。 そうすれば、瞬ちゃんは、瞬ちゃんの望む通りの瞬ちゃんになれる。 強くて優しくて、たくさんの人を幸福にできる人間になれる。 でも、その子に冷たくしたら……ああ、いいえ。瞬ちゃんが そんなことをするはずがないわね。 瞬ちゃんには、そんなことはできない。 私には わかる。 私は知っている。 私には見えている。 瞬ちゃんは、あの子を愛してくれる。 そして、世界と あの子と瞬ちゃん自身を幸せにする。 瞬ちゃんの夢は、あの子を愛することで叶うのよ。 私が誰かって? 私は、瞬ちゃんと その子の幸福が何であるのかを知っている者よ。 神様? いいえ、違うの。 少なくとも、何でも知っていて、何でもできる万能の神じゃない。 だから、こうして、瞬ちゃんのところに来たの。 その子を愛してあげてって、瞬ちゃんに お願いしに来たの。 その子と瞬ちゃんに幸福になってほしいから。 お願いしなくても、瞬ちゃんが その子に優しくしてくれることは わかってるのよ。 瞬ちゃんは誰にでも優しい子だから。 でも、その子にはちょっとだけ――ほんのちょっとだけでいいから、特別に優しくしてあげてほしいの。 その子には、瞬ちゃんは特別な存在だから。 その子には、瞬ちゃんだけが特別だから。 瞬ちゃんに そうしてもらえないと、その子は幸せになれないから。 私が その子のお母さんなのかって? まあ、瞬ちゃん。どうして そう思うの。 あなたは、あなたのお母さんのことを憶えていないんでしょう? お母さんが どんなものなのかも知らないんでしょう? ……そう。 憶えていないから、知らないから、だから、そう思ったの……。 そうね。 母親というものは、そういうふうに 我が子の幸福を願う存在よ。 そんなふうに我儘な存在。 そう。そういうものなの。 あの子を幸せにするためになら、私は何でもする。 だから、こんなふうに、自分の心を瞬ちゃんの許に運ぶこともできてしまうの。 瞬ちゃんは賢い子ね。 何もかも お見通しなのね。 瞬ちゃん。 駄目かしら? こんな身勝手な母親の願いは きいてもらえないかしら? 私は、あの子に幸せになってもらいたいのよ――。 |