沙織が ドルバルに捕えられ、オーディーン・シールドで封印されることになったのは、星矢たちがワルハラ宮からの脱出者によって 貴重な情報を得た日の翌日のことだった。
それは、星矢たちには 慣れた展開、ある意味では お約束の展開である。
アテナは自分が敵に捕えられることによって、彼女の聖闘士たちに『アテナ救出』という戦う理由を与え、モチベーションを与え、そしてまた 同時に、『正義は アテナ陣営にある』という大義名分を与えてくれるのだ。

それは いつものことなのだが、星矢が いつものように盛り上がれないのは、やはり いつものメンバーが揃っていなかったからだったろう。
『たとえ友の屍を乗り越えてでも、教皇の間に辿り着き、必ずアテナを救おう!』
『メインブレドウィナで、必ず また会おう!』
『きっと一輝兄さんも あとから来てくれると思うよ』
これまでのアテナの聖闘士たちの戦いを改めて思い出すまでもなく、戦いの決意を固くし、盛り上がるためには、やはり四人のメンバーが揃っていることが望ましいのだ。

「氷河も瞬もいないのに、どうすんだよ。アテナはドルバルの手に落ちて、それは いつものことだから いいけど――いつも通りなら、一輝は、瞬がピンチにならないと駆けつけてこないだろ。瞬と氷河がアスガルド側についてる現状じゃ、敵さんと俺たちの戦力比は5対2だぞ」
算数レベルで わかりやすい勢力比。
精彩を欠いた顔でぼやく星矢を、紫龍は、これまた かなり無理のある算数で鼓舞した。
「氷河と瞬をどうにかすれば、3対4になる。一輝が加われば、3対5だ」
「そうなったら楽勝だけど、氷河と瞬をどうにかすればって、どうするんだよ」
「それは まあ……。まず最初に 二人が なぜドルバルに従っているのか、その理由を明らかにして、適切な対処方法を考えるしかないだろう」
「“考える”ー !? 」

敵と戦う時には、余計なことを考えず 頭の中を空っぽにして 戦うことだけに専念したい星矢には、それは最も苦手な展開である。
かといって、手をこまねいて待っているだけでは、何も解決しない。
「ったく、もう!」
気乗りしない自分に 懸命に活を入れ、星矢は 紫龍と共に ワルハラ宮に向かって雪原を駆け出したのである。
“どうにか”して、『5対2』を『3対5』にするために。






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