「はじめまして、北の国の国王陛下。お会いできて、本当に嬉しい。僕、氷河様のお母様が お国で作られた、貧しい子供たちのための学校の管理運営について、ぜひ お話を伺いたいと思っていたんです。本当に素晴らしい試み。氷河様のお母様は、とても優しく 聡明な方だったのでしょうね……!」 南の大国の王弟は10代半ば。 しなやかな身体。 花に例えるしかないほど華麗な印象を持っているのに、どんな花なら この可憐さに匹敵するだろうと思える佇まい。 見るからに優しげな表情。 澄んでいるのに温かい光を宿した瞳。 氷河は、出会った その瞬間から、どんな逡巡もなく、瞬に好意を抱いた。 最初の出会いで、きらきらと輝く瞳で 母を褒められてしまったのである。 氷河にとって最高の女性、最愛のひとを。 それで、瞬に好意を持つなという方が無理な話だった。 異国の王から聞き出すべきことなら 他にいくらでもあるだろうと思うのに、瞬の関心は主に福祉分野の事柄に向かっているようだった。 氷河の母が そうだったように。 北の大国の 今は亡き王大后を、瞬が心から尊敬していることが、氷河には わかった。 美しく優しい人は 美しく優しい人に惹かれるのだと、まるで恋に落ちるように すとんと、氷河は瞬の善良と好意を信じることができてしまったのである。 南の大国の王弟との最初の対面の場で 氷河が成し遂げたのは、南の大国の王兄弟の秘密を探り出すことではなく、亡き母の思い出を語ること。 瞬に、北の大国の王を『氷河』と呼び捨てにさせること。 瞬を、敬称なしで『瞬』と呼ぶ許しを得ること。 その3つ。 氷河の南の大国訪問は、“瞬を知る”という大きな成果を 氷河にもたらしてくれたのである。 |