天蠍宮――蠍座の黄金聖闘士が守護する宮に、白鳥座の聖闘士とアンドロメダ座の聖闘士が来ていた。 水瓶座の黄金聖闘士と魚座の黄金聖闘士を倒した青銅聖闘士たち。 常にセブンセンシズを発動できる力を備えている黄金聖闘士の感覚で判断すれば、脆弱な小宇宙しか有していない――今日は聖衣を まとっていないせいか、少なくとも 今は、黄金聖闘士を凌駕するほどの小宇宙は感じさせない――二人。 しかし、この二人が黄金聖闘士を倒したのは厳然たる事実で、その事実を疑うことはできないのだ。 カミュとアフロディーテの最期の小宇宙が、彼に その事実を伝えてきたから。 氷河との戦いで、白鳥座の聖闘士が それだけのことを成し遂げられる可能性を 身の内に秘めていることを、ミロ自身、自らの感覚で感じ取り、知っていた。 初めて この二人が天蠍宮に姿を現わした時以来、天蠍宮に 氷河がやってくる時は 常に瞬が氷河の隣りに寄り添っていて、瞬がやってくる時は 常に氷河が瞬の側にいる。 二人は いつも一緒だった。 綺麗な二人だと思う。 アテナの聖闘士として 致命的な過ちを犯すことなく、正しい道だけを歩んできた者たちらしい、翳りのない瞳。 二人は若く、希望と生気に満ちていた。 現在、十二宮は半数の黄金聖闘士を欠いている。 アテナに従う青銅聖闘士たちとの戦いで命を失った黄金聖闘士たちが、もし この二人の歳から 自らの人生を生き直すことができたなら、聖域には今でも12人の黄金聖闘士が揃っていたのかもしれない。 若い青銅聖闘士たちは、ミロに そんな夢を見せる者たちだった。 白鳥座の青銅聖闘士と アンドロメダ座の青銅聖闘士。 いつも一緒にいる二人。 確かめたことはなかったし、二人も何も言わないのだが、ミロは、この二人の関係は特別なものなのではないかと察していた――半ば以上 確信していた。 氷河が 初めて蠍座の黄金聖闘士の前に現れた時の様子が、そもそも尋常ではなかったのだ。 氷河が瞬に対して どんな種類の思いを抱いていても、ミロは、さもあろうと思うばかりだった。 二人がどういう二人であっても――この綺麗な二人連れは、対峙する者に 違和感を覚えさせない。 この二人が二人でいることを、ミロは 自然なことだとさえ感じていた。 「まったく……氷河が君を抱いて、私の宮に来た時には 何事かと思ったぞ。遅参者のくせに、ペガサスたちに 何やら偉そうに語り出したかと思うと、だらだらと滝のような涙を流して――俺は あっけにとられることしかできなかった。こんな恥ずかしい男は そうそういない」 ミロはアンドロメダ――瞬に向かって言ったのだが、その言葉に 先に反応を示したのは氷河の方だった。 むっとした顔になり、 「いったい、何度、その話をするつもりだ。聞き飽きた」 と、顔以上に むっとした声で、先達たる黄金聖闘士に文句を言ってくる。 何度も繰り返した話なので、氷河の その反応に出会うのにも慣れている。 青銅聖闘士の分際で――とは思わなかった。 彼等がいなかったら、この聖域は、その正当な主であるアテナを迎えることができなかったのだ。 「この話で おまえが きまりの悪い思いをするうちは、何度でも繰り返すさ。生意気な青銅聖闘士を からかうには もってこいのネタだからな」 氷河が、作り物めいて“綺麗な”顔を更に不機嫌そうに歪める。 微笑んで蠍座の黄金聖闘士の話を聞いていた瞬が、(おそらく)そんな氷河のために 別の話題を持ち出した。 「星矢と紫龍、遅いね。きっと どこかで道草を食ってるんだよ。氷河、見てきてくれる?」 「……」 人馬宮、磨羯宮、宝瓶宮、双魚宮。 ミロが守護する天蠍宮の先にある宮には、それぞれの宮を守護する黄金聖闘士たちがいない。 生意気な青銅聖闘士たちは、アテナ神殿に向かうために合流する際には いつも この宮を待ち合わせ場所にし、全員が揃うまで 蠍座の黄金聖闘士を暇潰しの話し相手にしていた。 主が不在の宮は寒々しいから。 瞬に言われた氷河が、天蠍宮を出ていく。 わざわざ宮の外に出なくても、星矢たちが どの辺りにいるのかは 小宇宙でわかるのだが――氷河は もしかしたら、外気に当たって顔の歪み(?)を元に戻そうとしたのかもしれなかった。 |