アルベルトサンが合気会本部道場の事務所に預けていたのは、一つの小さな石だった。 瞬の師の名を告げ、 「瞬とヨーガです」 と名乗ると、事務員の女性は、薄いピンク色のベルベットのポーチを、微笑みながら瞬に手渡してきた。 彼女も、あの動画を視聴していたのだろう。 噂の(?)瞬とヨーガに アルベルトサンからの贈り物を手渡せることを、彼女は とても喜んでいた。 その小さなポーチから出てきたものが、直径1センチに満たない真球の石だったのである。 白みを帯びた水色。 温かさと冷たさが混じり合って一つの球を成しているような、優しい印象の石だった。 「石……?」 意味がわからず首をかしげた瞬に、氷河が その石の名を教えてくれた。 「エンジェライトだ」 「エンジェライト……天使の石?」 石の名を知って、瞬は、一層 深く首をかしげることになったのである。 白鳥座の聖闘士が、なぜ そんなことを知っているのかと、それを訝って。 その訳は、すぐにわかった。 「エンジェライトは水瓶座の守護石なんだ。石言葉は“許し”」 「え……」 「気障な男だ」 氷河が、泣き虫の仲間を泣かせないために そんなことを言ってくれたことは、瞬にも すぐにわかった。 “許し”という石言葉を持つ、天使の石。 瞬自身は、許されないことと思い、許されないことを願ってさえいるというのに、誰も彼もが瞬を許そうとする。 人は誰も、そんなふうに、許されない罪を 優しい人たちに許してもらいながら、自らの生を生きていくのだろう。 アテナは それを“愛”と呼ぶ。 許されないことはわかっているのに――優しい人たちの優しい心が、瞬を 悲しいほど幸福にした。 Fin.
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