青銅聖闘士たちの帰国日は、聖域に行っていた沙織が日本に帰る日と同日。
堅物で生真面目で 無責任なことが嫌いな紫龍のこと、この1週間で 春麗との間に何らかの進展があったとは思えなかったが、二人の絆は深まったろう。
何より、紫龍と一緒にいる間、春麗は いつもとても嬉しそうだった。
再び始まる 離れ離れの日々。
二人で過ごした時間が二人の心を慰め、強くしてくれるに違いない。
気丈に 優しい笑顔で紫龍に『行ってらっしゃい』を告げる春麗を見て、瞬は そう信じることができたのである。
そして、そういえば老師の答えを聞いていなかったことを思い出し、瞬は もう一度 あの質問を 天秤座の黄金聖闘士に投げかけてみた。

「老師は後悔してらっしゃるんですか。アテナの聖闘士になったこと。アテナの聖闘士として生きてきた日々を」
老師の答えは、あっけらかんとしたものだった。
「いいや。全く」
あっけらかんと、老師は答えた。
「おぬしたちに会えたからの」
楽しそうに笑って。

「わしの仲間たちの戦いと死は無駄ではなかった。あやつ等の命と戦いがあったから、世界は存続し、こうして おぬし等は生きている」
「ええ」
アテナの聖闘士の命と心は、そんなふうに受け継がれていくのだ。
そして、未来に続いていく。

「己れの信じている道を、仲間たちと共に行くがいい。おぬし等も おそらく後悔はせぬじゃろう」
「はい」
尊敬する先達の確言が、瞬と瞬の仲間たちの心を勇気づけてくれた。
そんなふうに新しい希望を一つ もらって、青銅聖闘士たちは 龍座の聖闘士の修行地をあとにしたのである。
紫龍と春麗の幸福を 誰よりも願っている老師に、
『老師のおかげで、別の二人の仲が 究極まで進展してしまいました』
と報告することは、さすがにできないままで。






Fin.






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