「おテーテー、ツーナイデー、オーウーチーに行ーケーバー」
パパとマーマと朝のお散歩。
パパとマーマと手をつないで歩くナターシャは、今日もご機嫌だった。
「野道じゃなくて、おうちなの?」
「パパとマーマと一緒なら、行くのは どこでもイインダヨ。どこだって、楽しくて嬉しいに決まっテルカラ」

ナターシャが楽しくて嬉しいと、瞬も楽しくて嬉しい。
東京も、少し郊外に出れば、野道はたくさんある。
コスモスや山菊が咲く季節になったら、三人で本物の野道を歩けるところに出掛けていこうと、瞬は思ったのである。

ナターシャは もう十分悲しんだ。
これからは ナターシャには幸福な思い出以外は必要ない。
そう、氷河は言っていた。
しかし、人の人生は、誰の人生も、常に順風満帆なものであるとは限らない。
当人の努力、周囲の人間の愛情だけでは どうにもならないことが、しばしば起きる。
氷河の切なる願いが必ずしも叶うとは限らないのだ。
だが、ナターシャの幸福を願う氷河の心は、確かにナターシャを優しい少女に育てていると思う。

誰もが、それぞれの場所で 一生懸命に生きている。
誰もが、幸福になりたいと願って 必死に生きているのだ。
明るく晴れた空。
まもなく 夏が終わり、次の季節が来る。
今日の幸福と平和が、瞬は 少し切なかった。






Fin.






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