大きさのわりに、重みはないようだった。 何やら 白い雲に似た、綿状のようなものが覗き見えている。 氷河の部屋のローチェストの上に 某百貨店のコーポレートマークの入った紙袋が置かれていることに気付いた時、瞬は その中には、氷河がナターシャのために買ってきた人形か縫いぐるみの類が入っているのだろうと思ったのである。 おそらく、ヒツジか長毛種の白いネコの縫いぐるみ。 氷河は、ナターシャのマーマに相談せず、一人で ナターシャへのクリスマスプレゼントを用意してしまったのだろう。 そう思った。 だが、ヒツジやネコの縫いぐるみにしては、様子がおかしい。 紙製の手提げ袋から覗いている白い綿状のものは、緩やかなウェーブを帯びていて、奇妙な光沢があり、形らしい形を有しているようには見えなかった。 素材は、おそらくポリエステル。 もこもこした白い綿状の何かの下に、更に 鮮やかな赤色の何かがある。 瞬は、その時点で既に 嫌な予感に襲われていた。 「これって、もしかして……」 感性は、『事実を知りたくない』と訴えてくる。 だが、理性は、『少しでも早く事実を確かめて、対策を練るのだ』と命じてくる。 感性と理性の間で葛藤しながら、しかし、瞬は、自分が その“嫌な予感”から どうあっても逃げられないことを知っていた。 意を決して、紙袋の中から その白いものを取り出してみる。 “嫌な予感”を覚えずに それを手に取っていたら、瞬には その白いものが何であるのかが、すぐにはわからなかったろう。 “嫌な予感”があったから、瞬は、それが“それ”であることを すぐに認識できたのである。 そして、 「やっぱり……」 と、苦渋の呻き声を喉の奥から洩らすことになった。 瞬が手にした それは、純白の長い つけヒゲだった。 ヒゲの下にあったのは、白く丸い房のついた赤い帽子。 赤いジャケット、赤いパンツ、黒い幅広のベルト。 袋の中にあったのは、紛れもなく、サンタクロースのコスプレ衣装一式。 氷河の小宇宙が 数日前から妙に高揚していた訳を、瞬は その段になって やっと理解したのである。 ナターシャが氷河の許にやってきて、初めてのクリスマス。 1週間後に迫った その日に向けて、ナターシャのパパは 異様なまでに張り切っているようだった。 もちろん、いつも通りに、傍目には無感動無感情に見える無表情で。 だが、幸か不幸か、アテナの聖闘士には、氷河の激しいまでの意気込みの程が 小宇宙でわかってしまうのだ。 こんなことで 小宇宙を極限まで燃やして どうするのだと、氷河をいさめたところで無意味無効。 こういう場合の氷河の小宇宙は不随意筋のようなもので、氷河の意思に関わりなく、勝手に強く大きく燃え上がってしまうらしい。 だから、氷河自身にも 止めることができないのだ。 暴走する氷河を止めるのは、いつも彼の仲間たちの仕事だった。 その仕事に取りかかるため、瞬は、白い つけヒゲを紙袋の中に戻し、氷河の部屋を出たのである。 仕事に取りかかる前から 既に疲れ切った、ひどく重い足取りで。 |