アンドロメダ座の聖衣をまとう資格を得るために乗り越えなければならない最大の試練――サクリファイス。 この試練に挑む資格を得るために、僕は これまで数年の間 共に修行を積んできた仲間と戦い、彼を倒した。 彼は とても自信家で、努力家でもあった。 彼は僕と戦い、僕に敗れることなど、考えてもいなかったろう。 でも、僕は彼と戦わないわけにはいかなくて――そして、彼を倒した。 命と心を持つ人間と戦い傷付けることに比べたら、サクリファイスなど どれほどのものだろう。 僕は そう思った。 そう思っていたのに――。 サクリファイスは、やはり強大な試練だった。 海中の大岩にアンドロメダ聖衣のチェーンで縛りつけられている僕に、水が押し寄せてくる。 それは、アンドロメダ聖衣のチェーンに束縛されてさえいなければ、いつもの僕なら 簡単に退けられるものだったんだけど、僕をアンドロメダ聖衣を まとう者として認めていないチェーンは、僕に力を振るうことを許してくれなかった。 急流と水圧に 僕の身体が圧し潰されそうになり、アンドロメダ聖衣のチェーンに 僕の心までが圧し潰されそうになる。 アンドロメダ聖衣のチェーンに、アンドロメダ聖衣をまとうにふさわしい力を示すことができないと、僕はここで命を落としてしまうんだってことが、僕には はっきりとわかった。 僕は兄さんと約束したのに。 必ず、聖衣を手に入れて、日本に帰るって。 そして、もう一度、兄さんに会うって誓ったのに――。 兄さんだけじゃない。 心配顔の星矢に、気遣わしげな目をした紫龍に、僕の代わりに僕の運命に腹を立てているような氷河に、『大丈夫だよ』って大口を叩いてきたのに――。 僕はもう駄目かもしれない。 兄さんにも星矢たちにも、僕はもう二度と会えないのかもしれない。 アンドロメダ聖衣のチェーン。 君は、僕の心を受け入れてくれないの? 僕は諦めかけ――けれど すぐに、僕は絶対に諦めるわけにはいかないんだということを思い出したんだ。 兄さんと、自分のことより僕の身を心配してくれていた仲間たちのために。 もう一度、彼等に会うために。 そして、もう一人の僕の身を案じて。 僕が ここで死んでしまったら、彼は どうなってしまうのか。 僕は死ねない。 ここで死ぬわけにはいかない。 だから、僕は僕の小宇宙を燃やした。 ううん。爆発させたんだ。 アンドロメダ聖衣のチェーンが、僕を優しく抱きしめる。 そして、僕は海の中で 意識を失った。 |