いくら僕に適性があるといったって、そして、万一 僕が次の12神の一人に選ばれ、その役職を継ぐのが1年後のことだといったって、僕はまだ十代の子供だ。
もちろん、若く未熟な子供を12神の候補に選ぶのは、先入観のない純粋さや 思考の柔軟性等、それなりの理由があるんだろうけど、僕は――僕は、本音を言えば、そんな重い責任を負う職務を任されることが恐かった。
だから、自然な眠りでなくても、その眠りには感謝したんだ。
夢の世界の僕は、地上の平和とアテナのために仲間たちと共に戦う聖闘士――いつ命を落とすことになるかもしれないという危険の中にはあったけど、自分で何かを決定し責任を負わされることのない立場の人間だったから。


そうして帰ってきた こちらの世界は、争いの絶えない世界。戦いばかりの世界。
でも、ここには信頼できる仲間がいて、僕が迷い悩んだ時には いつも仲間たちが救いの手を差しのべてくれる。
こんな幸せなことはないよ。
戦い、人を傷付けることは、本当に とても つらくて、悲しいことなんだけど。

あちらの世界――僕が眠りに落ちるたびに見る夢の世界は――おそらく、戦いを厭う僕が思い描く理想の世界なんだろう。
戦いがなく、不幸な子供もいない、平和で平等で、苦しみも悲しみもない世界。
その代償のように、心が浮き立つような 大きな喜びもない世界。
平和って、あんなふうに味気ないものなのかな。
だとしたら、僕は――。

「瞬」
氷河が、僕の名を呼ぶ。
氷河が、あの青い瞳で僕を見詰める。
冷たいのに、熱を帯びた瞳。
永遠に この瞳の中の住人でいられるのなら、死ぬまで戦い続ける運命にだって耐えられる。
氷河の瞳には、僕に そう思わせるだけの力があって――その瞳に見詰められていると、僕は 時々、何かに酔ったように気が遠くなってしまうんだ――。






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