次の日も、ナターシャを起こしてくれたのは おばちゃんだった。 朝ごはんは、トーストとアスパラガスのベーコン巻き。サラダとミルクセーキ。 椅子は子供用。 おじちゃんは 紺色の背広を着てた。 「パパとマーマ、今日は お迎えに来てくれるかな」 ナターシャが訊いたら、おばちゃんは ナターシャに頷いて――頷いたのに、 「お仕事が大変だから、もう ちょっと先になるかもしれないわ。今日は おじちゃんはお仕事だから、おばちゃんと一緒に お人形を買いに行きましょう。それから、新しいお洋服も」 って言った。 ナターシャ、ちょっと 変な気がしたヨ。 「パパかマーマがいいって言わないと、よその人から ものをもらっちゃ駄目なんダヨ」 マーマは、いつも そう言ってる。 ナターシャは いい子だから、マーマの言いつけをちゃんときくヨ。 パパも 『ちゃんと瞬の言うことをきくんだぞ』って言うカラ。 でも、おばちゃんは、 「このおうちでは、私たちがナターシャちゃんのパパとママだから、いいのよ」 って。 そうなのカナ? パパとマーマは、ナターシャのこと、言いつけを守らない悪い子って思わないカナ。 思わないなら……お人形は欲しいケド。 ナターシャ、ちょっと不安になったんだけとケド、おばちゃんが、 「七夕祭りまで、このおうちに いましょうね」 なんて言うから、ナターシャ、不安な気持ちを忘れちゃったヨ。 「タナバタ様は7月7日ダヨ。もう過ぎたよ」 ナターシャは、パパとマーマとタナバタ様の お祝いをしたんダヨ。 『パパとマーマとナターシャが ずっとなかよしでいられますように』ってタンザクにネガイゴトも書いた。 マーマは、ナターシャの願いが叶うといいねって言って、パパはナターシャの頭を撫でてくれた。 きっと ナターシャが ちゃんと『な』の字と『よ』の字を書けてたカラ。 カタカナの『ナ』の字は簡単だけど、ひらがなの『な』の字は難しいんダヨ。 「こっちでは、8月に七夕様のお祭りをするのよ。大きな飾りをいっぱい飾って、とっても綺麗よ」 「8月 !? 」 ナターシャ、おばちゃんに そう言われて、ビックリした。 センダイのタナバタ様が まだだったからじゃなく、ナターシャが 8月まで よそのおうちにいなきゃならないってことに。 エト、今日は7月18日だから、8月までは、あと13回も おねむしなきゃならないヨ。 パパとマーマは そんなにお迎えに来てくれないの? そんなにずっと、パパとマーマはナターシャに会えなくて平気なの? 光が丘で悪者が暴れてるの? 日本がピンチなの? ナターシャ、おじちゃんが お仕事に行ってから、おじちゃんのおうちのテレビをつけてみたケド、どこかで悪者が暴れてるニュースはなくて、テレビは いつもとおんなじに、『てれび絵本』や『みんなのうた』を映してて、日本は平和そうだった。 じゃあ、パパとマーマは、日本じゃなくギリシャで 悪者と戦ってるのカナ? それなら、ナターシャ、いい子で待ってるヨ。 パパとマーマは世界の平和のために戦ってるんだモノ。 よそのおうちの人には秘密だケド、ナターシャのパパとマーマは正義の味方なんだモノ。 パパとマーマが正義の味方の子供は、よそのおうちの子供より いい子でいなくちゃならないこと、ナターシャはちゃんと知ってる。 だから ナターシャは、いい子で パパとマーマのお迎えを待つヨ。 |