パンと干し肉と干した果物。
数日分の食料だけを持って、氷河は南に向かった。
食べ物が尽きぬうちにエティオピアに着けばいいと思っていたのだが、エティオピアは遠く、道半ばで食料は尽きてしまった。
氷河が頑健な身体を持っていなかったら、彼は 瞬に再会できぬまま、見知らぬ土地で行き倒れてしまっていたかもしれない。
たまたま通りかかった村の外れで、(わだち)に はまって動けなくなっている荷馬車を引き上げる手伝いをしたところ、その荷馬車の主が氷河に感謝して、銀貨と食料を分けてくれた。
その突発事故に遭遇したおかげで、氷河は、外の世界でも アルカディア同様、労働によって金と食べ物を得られることを知ったのである。

氷河は、それから、食べ物が尽きると、生活に ゆとりのありそうな家を探し、食べ物が欲しいから働かせてくれと頼むことを始めた。
そうすると、大抵 その家の女主人たちは喜んで、氷河のために仕事を見付けてくれた。
水汲みや 酒樽等の重い荷物の運搬、牧草の刈り取り。
氷河が『ありがとう』と礼を言うと、女主人たちが 約束より多くのものを分けてくれるのが不思議だったのだが、ともかく氷河は 有難く それらのものを受け取って、エティオピアへの旅を続けた。

食べ物がなくなるたび、仕事を見付ける――ということを繰り返す旅になったため、氷河の歩みは少々遅くなった。
それでも アルカディアを出て半月後には、氷河は何とかエティオピアの都に入ることができたのである。






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